これが新たに発行された臨時金券「トンピョ」。写真を入手した脱北者から提供を受けた。

◆企業の不振極まる

国営企業不振の主原因は、やはり新型コロナウイルス対策で中国との国境を封鎖して貿易が大きく落ち込んだことにある。中国に原材料を依存してきた企業は稼働低下、中断。委託加工生産品や鉱物が中心だった中国への輸出もほぼストップ状態だ。

また、過剰なコロナ対策で、国内の人とモノの移動・流通を強く制限したため、人々は現金収入を減らして購買力が落ちた。モノが作れず売れずで、市場の機能が大幅に縮小した。企業間の物資の流通が低調で、決済もまともに行われていないという。

協力者たちは現状を次のように説明した。

「中国への輸出が止まって企業間の取り引きの多くが消えてしまった。細々と稼働している工場は、生産物を市場の商人に販売している所くらいだ。生産に必要なものは市場で現金で買わなければならない。でも企業にも国にも金がない。それで『トンピョ』刷ったんだと思う」(Aさん)

「鋼鉄工場などいくつかの企業の経理担当に聞いてみたが、会計上の決済処理は銀行を通じてしてきたが、どこの企業も銀行に入れるお金がないため送金もできなくなっているそうだ」(Cさん)

「既存のウォン紙幣は個人の間では回っている。人民は国営の金融機関を信用しないので、『トンチュ』(新興の成金)にばかりお金が集まって、銀行が機能していない」(Bさん)

◆早くも「トンピョ」に不信拡大 

市中では、早くも「トンピョ」を劣等金券とみなして忌避が広がっている。B氏は現状を次のように述べた。

「『トンピョ』のことを人々は鼻で笑っている。それで5000ウォン券を現金4000ウォン、3800ウォン程に割り引いて買い取る両替商が出ている。彼らはまだ現金を持っている企業や機関に持っていってコネを使って現金と交換して利ざや稼いでいる。『トンピョ』が出て国に金がないことが分かったから、何が何でも中国元か米ドルをもたなければならないと考える人が増えた」

慌てた当局は処罰をちらつかせ始めた。Aさんによれば、人民班会議に来た役人は次のように告知したという。

「『トンピョ』は現在の難関のため臨時に発行しているが、現金と同じ価値があることを国が保証している。コロナが終わって国境が開かれ貨幣生産が正常化したら『トンピョ』は回収する。それを、質が悪いとか、将来紙くずになるとかの流言を広める者、割り引いて交換する者は、摘発して処罰する」

通貨の発行に支障をきたすほど金正恩政権の財政が悪化しているのは間違いない。過剰なコロナ対策の副作用が激しく現れている。

アジアプレスでは、労働党が10月に入って発行した「トンピョ」に関する「絶対秘密」指定文書を入手した。10月内にその詳細を報告する予定だ。

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

★新着記事