新型コロナに感染し、自宅待機中に症状が悪化した患者は病院や隔離センターに搬送される。 (撮影:10月19日、シリア、イドリブ・保健局撮影)

 

シリア北西部イドリブは反体制諸派が実効統治。反体制派武装組織掃討を目指すアサド政権のシリア政府軍との緊張が続く。(地図作成:アジアプレス)

◆イドリブでもロックダウン

シリア政府軍やロシア軍は、反体制派地域の病院までも空爆する。イドリブ南部にあったシャム病院は爆撃で閉鎖され、昨年、北部に移転してきた。周辺には避難民キャンプが点在する。キャンプの不衛生な環境と狭いテントでの生活で、家族間の感染が広がっている。最も力のない住民が戦争の犠牲となり、ウイルスによっても命を奪われている。

最も力のない住民が戦争の犠牲となり、ウイルスによっても命を奪われている。写真は搬送される新型コロナ重症患者。(撮影:10月19日、シリア、イドリブ・保健局撮影)

 

9月中旬、イドリブでは2週間にわたってロックダウンが実施された。学校や職場、商店が一時閉鎖となったが、守らなかった人も少なくなかった。

「家に閉じこもれば感染しないだろう。でも外で働かなければ生きていけない。まず家族を食べさせなければ」。

露天商の男性はそう話した。

医療設備が不足するなか、奮闘を続ける。イドリブは反体制派の拠点となっており、アサド政権のシリア政府からの支援はない。もともとイドリブ南部にあったシャム病院は、爆撃を受け閉鎖。昨年5月、北部に移転した。(写真:イドリブ・病院提供)

 

国際機関を通じて、イドリブにもワクチンが届けられているが十分ではなく、2回目接種を終えた人は全体の1%ほどだ。日本円換算で約350円で売られているマスク箱も、一日の収入がそれを下回る困窮家庭が多く、着用率は低い。

◆戦争とコロナ禍の二つの重圧に苦しむ住民

戦闘で負傷した市民の救護活動に携わってきた市民組織、民間防衛隊(ホワイトヘルメット)は現在、コロナ重症者の病院搬送や遺体の埋葬も任務の一部となった。

「戦争とコロナ禍の二つの重圧にみんな疲弊しています。死にたくない、助けてと、私を見つめながら亡くなった患者さんのことが頭から離れません。少しでも多く命を救いたい」。

ムハンマド医師は苦渋の言葉をにじませた。

国連による、ワクチンを世界に公平分配するための仕組み「COVAXファシリティ」のもと、保健機関などを通じてイドリブにもワクチンが届けられている。だが、2回目の接種を終えた人は全体の1パーセントにも満たない状況だ。(写真:イドリブ・病院提供)

 

(※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」2021年11月23日付記事に加筆したものです)

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