◆公権力による市民監視・情報収集がもたらす弊害
近藤さんら「大垣警察市民監視違憲訴訟」の原告と支援者らが結成した市民団体「『もの言う』自由を守る会」(岐阜県大垣市)は、「スパイ防止法」の制定に反対している。昨年9月13日の同会9周年総会の決議「市民監視強化の『スパイ防止法』制定に反対する―名古屋高裁判決を活かし拡げよう―」は、次のように「スパイ防止法」の危機性を訴えた。
「今、自民党右派議員と一部野党が『スパイ防止法』の制定を声高に求めている。『スパイ防止法案』がどのようなものになるのかは現時点で明らかではないが、市民監視を強化し、人々の内心をも縛る大変危険なものとなるであろう」
「日本国憲法は『政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し』て定められた。憲法の平和主義を守るためには、表現の自由 (21 条 1 項)や内心の自由 (19 条)等の精神的自由が公権力によって侵害されることを許してはならない」

そして名古屋高裁判決を、「スパイ防止法」に反対し、市民監視強化の動きを食い止めるために活かし、広めようと呼びかけている。
「もの言う」自由を守る会の決議は、名古屋高裁判決が公権力による市民監視・情報収集がいかに弊害をもたらすかについて、基本的な問題点を指摘したとして、前出の【虚像形成・冤罪】とともに、【萎縮効果】と【人間関係分断】の弊害に関して、次のように判決文から引用している。
【萎縮効果】「私人が発信した自己の情報を公権力が広く収集し、分析しているとすると、私人が自ら情報発信すること自体を躊躇する可能性があるし、情報発信する内容についても、公権力がこれを収集していることを前提とした内容にしてしまう可能性があるのであって、……私人が自らの行動に対する心理的抑制が働き、少なくとも自由な情報発信に対する事実上の制約が生じることは明らかであって、憲法で保障された表現の自由 (21条1 項)や内心の自由 (19 条)に対する間接的な制約になる」(判決本文P48~49)
【人間関係分断】「公権力が、ある者の個人情報を収集しているということは、その者と接触する者の個人情報や、その者が所属する団体ないしグループ等の情報も公権力によって収集されることになるから、そのような者との交友を避けたり、そのような者がグル-プ等に入ることを嫌ったりすることが考えられるのであって、現実的な社会生活への影響を生じさせる」(判決本文P49)
公安警察や自衛隊情報保全隊など公権力による市民監視と情報収集は、まさにこのような弊害をもたらし、憲法が保障する基本的人権を侵害する。「スパイ防止関連法制」が制定され、市民監視・情報収集体制が強化されたら、自由にものが言えない萎縮の空気が広がり、排外主義の同調圧力とともに人びとの間に疑心暗鬼や相互監視、誹謗中傷などの風潮も浸透して、人間関係の分断も起こってしまう。弊害はより深まるだろう。
この名古屋高裁判決の全文は、「もの言う」自由を守る会HP(裁判のページ+α 内の「判決書本文」)で公開されている。(つづく)
吉田敏浩(よしだ・としひろ)1957年、大分県出身。ジャーナリスト。著書に『ルポ・軍事優先社会』(岩波新書)、『「日米合同委員会」の研究』(創元社)、『横田空域』(角川新書)、『昭和史からの警鐘』(毎日新聞出版)など。























