「対テロ戦争」の遂行者は誰か
アメリカでは、ヴェトナム戦争から撤退した後、徴兵制は廃止され、アメリカ軍に入隊するのはすべて「自由意思で志願」した人々である。しかし、誰がどのよ うな理由で「志願」しているのかを見ると、「自由意思」とは言えない実態が浮かび上がる。大規模な実戦を展開するには、兵員が必要だが、アメリカ軍では湾 岸戦争当時と比較して、兵員のおよそ25パーセントが削減されており、人員確保が課題である。軍のリクルーターには新兵確保の重いノルマが課せられてい る。

新兵募集のリクルーターがもっとも勧誘しやすいのは、貧しく、将来の見通しがたたない若者である。教育、医療、福祉分野の補助金や助成金予算が削減 されるなか、生存権さえ脅かされている貧困層の人々の選択肢は狭められている。彼らが入隊を志願する主な理由は、高等教育の学費(5)と医療保険を得られ るからというものである。

学資ローンが払えなくなった大学生が、借金返済のために州兵となる場合も少なくない。移民として強制送還される不安のなかで不安定な生活を強いられ ている人々も、軍に「志願」している。2002年に入隊と引き換えに市民権が取得できるという移民法(6)が制定され、アメリカ市民ではない現役兵士は 03年で3万7401人に及んだ。

さらに、2007年には、ビザをもたない「不法移民」も、入隊することで市民権獲得の手続を取ることが可能になった。国防総省によると、毎年約8000人の市民権をもたない人々が入隊している。

「対テロ戦争」には、多くの州兵(National Army Guard(7))が動員されており、イラクおよびアフガニスタンに派兵されている兵士のおよそ40パーセントを占める。州兵は、一般社会で生活を送りつ つ、定期的に訓練に参加し、主に州内で起こった災害などの緊急時に出動する。

イラク戦争以前は、「毎月一回の週末、一年に二週間(one weekend a month, two weeks a year)」が、州兵募集のスローガンだった。州兵が国家の安全保障上の危機に際して実際に動員されることは稀であったため、州兵の登録をした時点では外 国での実戦に派遣されると思っていなかった人は多い。海外に派兵されることはない、と説明されて登録した人もいる。イラク戦争に反対だった人も派兵されて いる。

リクルーターの勧誘で入隊を「志願」する人々の多くは、ファストフード店での低賃金労働やトレーラーハウスでの生活から脱することを夢見た若者だった(8)。このような実態は、「貧困徴兵」あるいは「経済的徴兵」と指摘される(9)。
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