シリーズ1から読む>> 穏やかなニジェール川の旅(マリ)<ひと握りのアフリカ –1>

断崖が続く喜望峰、味も景観もすばらしいワイナリー、手軽に楽しめるサファリツアーなど、南アフリカ共和国(以下南ア)の観光資源は枚挙にいとまがないが、南アの魅力は自然美だけではない。様々に異なる人々が共に暮らす姿もまた、この国を特徴付ける大切な魅力のひとつだ。南アの多様さを確かめたく、2つのコンサートを訪ねた。(岩崎有一)

ズールー族のパーシベルが、ズールーが暮らす村を案内してくれた。ここは、パーシベルの実家。(ウィンタートン・南アフリカ 2017年/Winterton, South Africa 2017 撮影:岩崎有一)

私設観光案内所を営むクリスが組んでくれたスケジュールの書かれたメモの最終日には、「Zululand(ズールーランド)」とあった。

ズールーとは民族名であり言語名でもある。ズールーは、南アを構成する主要な民族のひとつだ。ウィンタートン周辺においては、人口の8割強をズールーが占める。

「ズールーランド」と言った場合、厳密には、南ア東部の旧黒人自治区を意味する。ドラケンスバーグ地方は、このズールーランドには含まれていない。当時も現在も、ズールー族が暮らす地域は、狭義のズールーランドに限定されているわけではなく、同国東部に広く展開している。また、南アは9つの州から形成されており、州都をダーバンに置く「クワズールー・ナタール州」との州名にも、ズールーの名が見られる。クリスは、「ズールー族が暮らす地域」という意味で、ズールーランドと記したのだった。

パーシベルの実家の室内。室内は実にきれいなものだ。家具や調度品も整っている。(ウィンタートン・南アフリカ 2017年/Winterton, South Africa 2017 撮影:岩崎有一)

クリスが紹介してくれたパーシベルを伴い、私たちは最初の目的地を目指した。

そこで何を体験できるのかと聞くと、ズールーの歌を聞き、彼らの社会を知ることができるとのこと。当初、観光客向けの文化紹介施設のようなものがあることを想像していたが、パーシベルの話から、彼がズールーの暮らす地域を紹介してくれようとしていることがわかった。パーシベル自身も、ズールー族の人だ。

居間があるのに、実家のみなさまは戸外の納屋で団らん中だった。来訪者である私を気遣ってのことだったのかもしれない。(ウィンタートン・南アフリカ 2017年/Winterton, South Africa 2017 撮影:岩崎有一)

民家の一室を訪ね、そこに女性が集まり、雨乞いの歌を歌う様子を披露してくれた。無病息災を祈る祈祷師のもとを訪ね、祈祷の儀式が私に向けて行われた。いずれも大変に興味深いものだったが、私にとっては、彼らが暮らす環境を目の当たりにできることそのものが、何よりも嬉しかった。

ズールーの集落に入り、砂利と泥の混じった道を、パーシベルとゆっくりと歩く。コンクリート造りの低層家屋と、円筒形をした旧来の家屋が1対となった家々が、道沿いに並んでいる。家々には大小の畑があり、トウモロコシをはじめ家庭で消費する作物が植えられていた。ときどき、日用品全般を扱うキオスクがあり、店主はぼんやりとこちらを眺めている。各戸に上水道はひかれており、ラジオのボリュームを上げて音楽を聞きながら、車を洗う光景も見られた。空は濃紺と感じられるほどに青く、畑の作物や雑草もまた、黒々と濃い緑色をしている。

ここでは食事もご馳走になった。左から、煮込んだ鶏、パン、ジャガイモの煮込み、パップ(白トウモロコシ)。美味い。(ウィンタートン・南アフリカ 2017年/Winterton, South Africa 2017 撮影:岩崎有一)

すれ違う人々は必ず、こちらに向けて言葉をかけてくれる。挨拶を交わし、どこから来た、どこへ行くと話をすることの繰り返しに、煩わしさを感じることはない。ああ、私は今、アフリカにいるんだと、しみじみと感じられてきた。西でも東でも、アフリカのどの国にも通ずるアフリカっぽさを、ズールーの村を訪れることで、私はやっと感じることができた。

祈祷師の女性。神のお告げを聞いてこの職を始めるまでは、主婦だったそうだ。(ウィンタートン・南アフリカ 2017年/Winterton, South Africa 2017 撮影:岩崎有一)

南アは一見すると、西欧世界と何も変わりのない国だ。宿に泊まればどこも綺麗なシーツとベッドがあり、レストランに入れば整った洋食を食べることができる。冷涼な気候の地域が多く、インフラも広く整っている。目隠しをしてこの国に連れて来られたら、ここがアフリカだとは、すぐにはわからないだろう。南アにいると、アフリカ感が薄い。

この西欧世界との変わりのなさは、白人社会が作りあげたものだ。その周囲には、圧倒的多数の黒人社会があることは、南ア国内を移動していれば伺い知ることはできる。しかし、タウンシップ(旧黒人居住区)を外国人が訪ねることは危険だとの助言が重ねて聞かれるため、なかなか近づきがたい。南アにいると私は、アフリカにいるのに、アフリカらしさがすぐそこにあるはずなのに、そこに近づくことのできないもどかしさを感じてしまう。しかしここでは、パーシベルとともにズールーの村々を散策することで、南アのドラケンスバーグ地方に見つけたアフリカらしさを、満喫することができたのだった。

孤児院を運営する女性。(ウィンタートン・南アフリカ 2017年/Winterton, South Africa 2017 撮影:岩崎有一)

散策をしていても、緊張感を抱かされるようなできごとは、一切なかった。学校を訪ね、保育園を訪ねた。パーシベルの実家を訪ね、食事を共にし、少しうたた寝をした。ただただ、のんびりとした散策だった。

ドラケンスバーグ地方におけるズールー社会では犯罪は起こらないのかと、パーシベルに聞いてみた。

「殺人事件は、ここにはありません。せいぜい、携帯電話をすられた、といった程度です。困った時に、金や穀物を分け与えてくれなかったとの理由から喧嘩になることもたまにありますが、喧嘩程度で収まります。私たちはお互いのことをよく知っているので、犯罪をしてしまっては、ここで暮らすことができません。大都市のタウンシップで犯罪が多いのは、多くの人々が絶え間なく出入りしているため、お互いのことを知らないからです。犯罪が起きても、誰が犯罪を冒したのかがわからない。犯罪を冒したものは、すぐにいなくなることが容易にできる。この地域と都市部とでは事情が異なります。」
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