こんな話がある。将軍様がある地方の視察へ行った時、一般人民の姿が目についたので幹部にこう聞いたそうだ。
「人民たちは食べるものがないのというのに、大丈夫だと言っているのか?」
「はい、大丈夫だといっています」

「そうか、それは本当にいい人民だ」
口先だけで「本当にいい人民だ」などと言って何になる。「いい人民」なんだったら、もっと幸せにしてやるべきじゃないか。

「いい人民だ」とか言って、政治家として「おとなしい羊」でも扱うみたいに、どんな呼び方をしてもいいわけではないだろう。人民が従順であることをいいことに、人民の口をふさぎ、外国の情報もいっさい遮断して、いま世界がどうなっているのかを知らせないなんて、許されないことだ。

政治が根本からガラリと変わらなければならないのだが、今のところその気配は見えない。今のままなら、外からいくら放送やら何やらを使って揺さぶってみたところで焼け石に水だ。

もちろん、時間の流れとともにどう変化していくかはわからないが、いずれにせよ、変わるには相当な時間がかかる。問題は時間だ。時間をかけてでも何とか変わらないといけないんだが......。

人間の寿命には限界があるのだから、将軍様が千年も万年も生き続ける訳ではない。万一、将軍様の後継者に選ばれた人間が、今のままの政治を続けようとするなら、そんな人間には政治をさせるわけにはいかない。
また、他の誰かが今とは違う政治をするとしても、何もかもすぐには変わらないだろう。最低三年は今までの政治の影響が続くんじゃないか。とにかく一日も早く改革開放しないといけないのだが......。人民たちがこのままの状態に置かれ続けるなんて、いちばん残念だ。

個人起業を合法化しては
リム あなたは、どうすれば経済が回復すると思いますか?
キム 朝鮮には個人(民間)が経営する企業というものがない。中国にあって朝鮮にないものの最たるものが民間企業だ。

例えば、中国では公共バスも個人に運行が任されている。すべて個人だ。だから中国共産党は全部個人所有制にして税金だけ集めればいいようになっている。個人から税金や家賃などを徴収するだけで、国の財産は増えていっている。こういうところから少しずつ個人所有に転換していっているので、どんどん発展していっている。

だが、朝鮮はそうではない。権力を握る幹部たちが、つまり俗に言う「ねずみ」がことごとく着服するものだから「うさぎ(人民)」の手には腐った葉っぱしか残らない。

朝鮮の政治ががらっと変わって、何もかも解放して、それから個人所得を申告させるようにして、個人が起業できるようにすればはるかに発展するのに。朝鮮では個人企業は存在しえない(注2)。
このごろ見かけるようになった「個人食堂」などは、金を持っている人同士が共同で運営し、国家に金を払っているにもかかわらず、自由に従業員を雇うこともできない。
次のページへ ...

★新着記事