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赤ん坊の泣き声と眠りについた人のいびき以外、車内に声はほとんど聞こえない。私の前の座席に座った少女は、携帯電話で延々とメールを書いている。

右後ろのお爺さんは、新聞で包まれた摘みたてのミントを眺めてご満悦。その隣に座った女性は、進行方向をじっと見据えながら、パンをかじり続けていた。皆、心の中で静かに、それぞれが向かう町の風景を想っているように見えた。

港町アガディールを越えると、道の両側にせまる砂の深さが増してくる。この時期はモロッコも冬で、気温は8度ほど。冷たい月明かりが、小さなこぶ状の砂丘にボコボコとした影をつくっている。バスは朝まで休まずに、濃紺の砂景色の中を時速105kmの定速で進み続けた。

タルファヤに着き、前回と同じ宿を訪れた。宿のスタッフは皆、入れ替わってしまっていたが、口数少なく温かくもてなすふるまいは、以前と何も変わらない。

部屋に荷を置くやいなや、毎日毎晩語らいあった親友のもとへと、私はこみ上げてくる気持ちとともにホテルを飛び出した。私を見つけた友人は目をむき出し、あの時と同じように、「アントレ(お入りなさい)」と言って中へ招き入れてくれた。
無事、心の故郷のひとつに、到着。