たったの四枚で息子はいじめに遭っている。頭にきた私は、妻に向かって怒鳴った。
「母さん! 明日すぐにジャンマダンに行って買ってあげなさい!」
「あなた、よく考えてくださいよ。いったい一枚いくらすると思ってるんですか。合格品は四〇〇〇ウォンもするんですよ。四枚なら一万六〇〇〇ウォンですよ。それにウンジョンのはどうするんですか。今日、担任の先生から三枚提出するか現金で払うようにって、手紙が来てたのに」

ウンジョンとは我が家の娘の名前である。学校に払うお金があまりにも高すぎるので、病気の治療を兼ねて、農村にある妻の実家に預けているのだ。
「学校に行っていない子の分まで出せっていうのか?」

「先生が言うには、転校届けが出ていないからまだ籍が残っているんだって。無条件に出さないといけないらしいわ」
まったく呆れた話だ。急にむかっ腹が立った私は、思わず息子に当たってしまった。

「ウンジョンは三枚なのにどうしてお前は四枚なんだ!」
「お父さん、少年団員は一人三枚で、青年同盟は四枚なんだよ」(注1)

「家で飼ってもいないウサギの毛皮を無条件供出だなんて、まったく呆れてものが言えないよ」
「お父さん、そんなこと言ったってしかたないでしょう。全ての人民はウサギを飼育するようにというのが党の方針ですよ。農村だろうが、都市だろうが、肉は家で食べて毛皮だけ出せって。それも一等品だけだって」

「それで、お前のところの先生はその毛皮をどうするんだ?」
すると私の顔色を窺いながら妻が口を挟んだ。

「人民軍兵士の帽子と冬服を作るんですって」
「何言ってんだ。俺はいまだかつて、ウサギの毛皮の帽子をかぶった軍人さんなんて見たことないぞ!」
息子がからくりを解説する。

「毛皮が軍隊に行く訳ないじゃないですか。どうせ中国に密輸されるに決まってるよ。家でお母さん達が大変な思いをして稼いできたお金で毛皮を買って学校に出したって、それを青年同盟は右から左に密輸業者に売り飛ばすんですよ」
「じゃ、何で春に仔ウサギを買って飼育しなかったんだ」
私は妻に矛先を向けた。

「何を言ってるんですかあなたは。春先にどこに草があるっていうんですか。山に行ったってないのに。仮にあったとしても誰が採りに行くんですか。結局、市場で餌になる草を一キロ二〇〇ウォンで買ってきてうさぎを飼ったって、それくらいは(四〇〇〇ウォンくらい)かかるんですよ」
妻はあきれたという表情で反駁した。

「まったく、やってられないな。毎日のようにカネ、カネって。私が学生の頃はこんなんじゃなかったのに。どうして今はこうなんだ。今の子どもたちは勉強をしに学校に行っているのか、金をせびられに行っているんだかわかりゃしないな」

私はうっかり大声で不満の声を上げてしまい、誰かに聞かれてはいないかと思わず玄関や窓の方を確かめた。窓の外は、相変わらず雨が強く降っていた。それはまるで、どこにもやり場のない怒りの声をぶちまけても他人が聞くことがないように、天が同情してくれた長雨のようであった。
資料提供 チョン・ミョンホ
(中国に出てきた北朝鮮人のリムジンガン読者)
二〇〇八年八月
整理 リ・ジンス
注1 少年団も青年同盟も労働党傘下の社会団体。人民学校二年生から一四歳までは少年団、一四歳から三〇歳までは青年同盟に加入する。正式名称は金日成社会主義労働青年同盟。北朝鮮では、幼児を除いたすべての国民が組織活動をしなければならない。最初に加入するのが少年団である。

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