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取材 キム・ドンチョル

監修 リ・サンボン(脱北者)
整理 石丸次郎

「手掘りなんですよ」。
キム・ドンチョルの言葉に一瞬耳を疑った。石炭は北朝鮮において「工業の食糧」と呼ばれるほど重要な資源である。
推定生産量は年間二〇〇〇万トン以上。石炭は北朝鮮最大の輸出品目であり電力生産の主力燃料だ。それを、つるはしで掘っているなんて......。石炭産業の実態はどうなっているのだろうか?

平安北道に住むキム・ドンチョルは、かつて炭鉱で働いたことがある関係で石炭産業について詳しい。二〇一〇年秋、彼に、北朝鮮の代表的な石炭産業基地である平安南道の順川(スンチョン)地区青年炭鉱連合企業所に行ってもらい実態を調べることにした。整理に当たっては、咸鏡北道にある游仙(ユソン)炭鉱で、一九六〇年代から二〇年間勤めた脱北者のリ・サンボン氏の体験も参考にした。

取材を始めるきっかけになったのは、豆満江を越えて中国に出国して来たキム・ドンチョルとの会話で、次のような話が出たことだった。

石丸:北朝鮮の主要輸出品目は天然資源。特に茂山(ムサン)郡の鉄鉱石と平安南道の石炭を、中国に輸出して稼いでいますよね。でも多くの朝鮮人が「炭鉱は稼働していない」というけれど、実態はどうなっているんですか?
キム:平安南道には安州(アンジュ)、順川などに大きな炭鉱地区があり、知人や親戚に炭鉱労働者がいるので年に数回訪れますが、どこもうまくいってませんよ。今や、全部手掘り。

発破で崩した後はつるはしで掘ってる有様ですからね。それから、坑内で掘った石炭は、籠に入れて背負って運ぶんです。機械がまともに動いていないから。安州炭鉱だけは少し機械でやっていますが。

韓国統計庁の推計によると、この数年、北朝鮮の石炭生産量は年間二五〇〇万トン前後で推移している(注1)。それをつるはしで掘り、背中に担いで運んでいるとしたら凄まじいことである。

設備や資材が老朽化したからだろうとは想像がつくが、その原因は複合的に折り重なっているのではないか。実態を取材するためにキム記者が赴いた順川地区炭鉱には、天聖(チョンソン)青年炭鉱、2・8直洞(チクドン)青年炭鉱、新昌(シンチャン)青年炭鉱などの優良炭鉱がある。このうち、北朝鮮では安州炭鉱に次ぐ、ナンバー2の炭鉱として名高い直洞炭鉱を重点的に取材してもらった。この直洞にはキム記者の知人が現役の労働者として働いている。さらに平安北道の彼の自宅からさして遠くなく、商売で行き来した経験があるため、キム記者はこの地区の事情に明るい。
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