◆衝撃2 配給途絶世代の登場
世代交代の一方で、もうひとつの世代問題の衝撃が押し寄せている。
先軍政治は、一〇〇万の若い兵士たちの苦役の上に成り立っている。下士官から元帥に至るまで、軍法で兵士たちを抑えつけ、搾取し寄生している。この欺瞞が向けられるターゲットは一八歳から二二歳ぐらいの若い兵士たちだ。朝鮮ではこの年齢帯の男子のおよそ半数が軍に服務する。

しかし青春時代の貴重な一〇年間を、空腹に耐えながら水桶を抱えて走り、夜には見張りに立ち、日中は野良仕事をして過ごせるような若い男は、もう朝鮮にもいなくなりつつある。

九〇年代初頭に生まれた「配給途絶世代」が、二〇〇八年からいよいよ兵役で入隊する年齢になり始めたのだ。この世代は栄養失調で多くが命を落とし、生き残った者も体は小さく細い。夫婦も子供を生むのを避けた時代である。

三年後の二〇一二年にはこの「配給途絶世代」が若い兵士の一〇〇%を占めるようになる。つまり圧倒的な兵員不足の時代がすぐ目の前に来ているのだ。
兵員が足りなくなって軍隊の土台が崩れたら、先軍政治は黄昏期に入るしかない。この衝撃に耐えるためには、先軍政治をやめて新しい政治を模索するしかない。

◆衝撃3 成熟する脱北―亡命者社会
一九九〇年代の政治的な混乱と、大飢饉から発生した大量脱北は、韓国の一万五〇〇〇人を超す規模をはじめ、世界各国に脱北―亡命者社会を構築するに至った(注1)。韓国、中国やロシア、日本そして遠くは米国、英国などの脱北―亡命者社会は、ようやく自律的に朝鮮社会の在り方と正義に関心を持って活動し始めた。

数年前までは、外部の人間の視線で研究する「北朝鮮学」の学者、専門家などと、一部の在韓脱北者たちが、朝鮮に対する批判や分析を発信するのが主流であった。現在では、朝鮮内部と直接連携を持つ独立した脱北―亡命者のグループも出現し、朝鮮の外部の人間の視点ではなく、朝鮮内部の人間の視点で、情報収集・分析・発信する動きが始まっている。

言い換えれば、未来志向的な観点から朝鮮人の思考と実情に即した独特の文化と言語で、問題を客観的かつ自由に研究分析・発言する勢力が出現しているのだ。
朝鮮内部の客観的な情報がリアルタイムで外部に伝わり、また、外部の情報が朝鮮内部へと確実に伝わる双方向のルートも確立されつつある。数十年間に渡って、党と政府の虚偽に騙されてきた民衆、そして幹部や党員たちが、外部の情報と接するようになった。

朝鮮の権力者たちにとって、民衆が無知蒙昧から脱皮する事態は衝撃である。わずか十年前には考えられなかったことが、現実に起こりつつある。
(つづく)

注1 朝鮮を離れ海外で国籍を取得していなければ「脱北者」、韓国国籍を取得すれば「在韓脱北者」、そして諸外国の国籍を取得すれば「亡命者」というように、筆者は暫定的に分類している。

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