アメリカ在住の作家で画家の米谷ふみ子さんが帰国するのに合わせ、5月25日夜、 大阪市中央区のドーンセンターで「うずみ火講座」を開講した。米谷さんは1930年、大阪生まれ。29歳で渡米し、ユダヤ人作家と結婚。86年に『過越しの祭』で芥川賞を受賞した。「これだけは言っておきたい」と題した講演の採録をお届けする。
新聞うずみ火(矢野宏)

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講演する米谷さん

アメリカに渡って50年になるが、相手が大統領であれ、誰であれ、あなたはあなた。「YOU」ですむ。だが、日本は敬語の使い方がややこしい。あなたなのか、貴様なのか、あなた様なのか。その相手が自分よりも上か下かによって敬語を使いわけなければならない。

人の命に関することでも上と下ばかり考えている。福島第一原発事故でもそう。東京電力の社長に対してものが言えない。それよりもどれが正しいかを考えねばならないのにいろんなことに脳を使っている。
私は、日本で民主主義が育たないのは敬語があるからだと思っている。私は、政府や制度は障がいのある人や貧しい人など、社会的に弱い立場の人たちを助けるためにあると思っている。

だが、2012年の大統領選挙で共和党の副大統領候補になったポール・ライアン氏は「社会福祉を全部カットせよ」と訴えた。アメリカの財政が厳しいからだが、記者たちが社会的な弱者はどうするのかと尋ねると、「ほっとけ」と。共和党の右派はこれまで以上に後退している。

改憲を目指す理由が「人からもらったもの」ということ。でも、平和憲法は世界で最も美しい憲法だ。美しいものはどこにいっても美しい。改憲を声高に叫ぶ保守政治家はその美しさを判断できない。そんな政治家に憲法を変えさせたら、女性の権利がなくなってしまう。世の中の知識と判断力が半分になってしまう。

憲法を変えたい人は軍隊を持ちたいと考えている。軍隊を作ったら国の税金を軍需産業に注ぎ込ませ、その何%かを自分のポケットに入れたいのだ。連れ合いの友人で人権擁護協会の弁護士がいた。1945年、進駐軍と一緒に日本に来た人で、当時を振り返って私に言ったことは「敗戦後の日本を理想的な社会にしようとした。アメリカでできなかったことを日本で実現しようと思った」と。

だから、女性の選挙権実現もスイスよりも早かった。それも、軍隊にお金を入れなかったからできた。アメリカが赤字だらけなのは予算の半分を軍事産業につぎ込んでいるから。
70年代、国から教育費が出ていた。カリフォルニア大学の授業料は年間500ドル。それが今では1万6,000ドルに。政府からの教育費がカットされているからだが、大学のトップの給料は100万ドル(約1億円)もらっている。庭職人は時給8ドル。
日本が軍や軍需産業を持つようになればどうなるか。

アメリカのように中産階級や下層階級が貧乏になり、上は甘い汁を吸うことになる。軍隊の中では女性隊員などへのレイプ事件も多い。1週間で500人ずつ事件に巻き込まれたという数字も明らかになっている。そんなときに、大阪市の橋下市長の発言があった。私はあきれてものが言えなかった。女性を人間とも思っていない、そんな人間を市長にしておいてどうするのか。大阪の恥よ。

橋下氏が大阪府立大の文学部をなくすと言ったとき、大手新聞社に書かせてほしいと言うと、「うちとは関係ありません」と言われた。書いてもらってもいいいが、「橋下知事(当時)と学長の批判はしないように」と。橋下氏をなぜそこまで恐れる のかわからない。
権力の暴走を食い止めるというメディアの責任を果たしていない。最後に言いたいのは、憲法を変えてはダメ。女性の権利を認めようとしない橋下氏には市長を辞めてもらわなければダメ。そのためにも声を上げることです。

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