石丸次郎(左)に金正恩氏について評価しているチャンさん。写真 南正学

石丸次郎(左)に金正恩氏について評価しているチャンさん。写真 南正学

◇金正恩にも独裁の責任が発生する

石丸:この座談会の冒頭に、金正恩氏が祖父である金日成の物真似をしているという話がありました。今の若者たち、特に90年代生まれの世代では、金日成(94年に死亡)を知りませんよね。どう思っているのでしょうか。昔の偉人、という感じでしょうか?

チャン:若い世代は金日成についての直接的な記憶を持っていませんが、「金日成の時代にはいい暮らしをして、食べ物にも困らなかった」という教育を受けてきているので、ある程度は敬う気持ちがあると思いますね。

石丸:若い金正恩氏が登場したばかりの頃、少なくない北朝鮮の人々が「変化への期待、新しい政治への期待」を口にしていました。ところが、執権一年半の間、祖父や父の古臭い唯一絶対独裁のやり方を、そのまま継承している。

北朝鮮における無残な貧困や抑圧、飢餓の責任は、祖父金日成と父金正日にあるのであって、その体制を世襲継承した時点では、若い金正恩氏に責任はなかった。しかし、執権一年半が経ち、今の人民の苦難に対しては、責任が生じていると思います。

ハン:そうですね。金正恩には政権初期に少なくとも国民に対する責任はなかった。

チャン:金正恩は、政治を始めるに当たり、民衆の実際の生活を見て回って国がどうなっているのか、国民の望むこ とは何かを把握するのではなく、とにかく指導者として認知を高めることに必死だった。夫人の李雪主(リ・ソルジュ)を伴ってあちこちを視察したのも、「新 しい世代の指導者」というイメージ作りのためです。

私が知る限り、去年から今年にかけて、北朝鮮では物価の上昇が続いていますし、先ほども話したように、農業改革も掛け声だけで成果がない。そんな 中、北朝鮮の民衆のほとんどは、金正恩に対する幻想を捨ててしまったでしょう。そして(これまでと同じように)国や指導者を頼り依存するのではなく、自ら の力で生きる道を探していくことでしょう。

ハン:私はもともと、北朝鮮という国で行われる政治行為自体を信じたことがありません。金正恩が登場してから一 つ印象に残っているのが、去年公開されたモランボン楽団の公演です。これまで北朝鮮で見たこともなかった、米国映画のロッキーやミッキーマウスが演壇に登 場するのを見て、「もしかしたら、この国の何かが変わるのではないか」と考えたりもしました。ですがその後、金正恩が金日成を真似ている姿を見て、独裁政 治はこの先も続くと思い直しました。(つづく)

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