◇金正恩政権の狙いは何か
そもそも金正恩氏は、父・金正日時代に「拉致問題は解決した」として交渉すら拒んできた日朝協議になぜで出来たのか?最大の目的はズバリ金である。日米韓 の間に楔を打ち込みたい、関係が悪化している中国を牽制したい意図もあるだろうが、今の北朝鮮は、外貨がとにかく足りないのである。

北朝鮮の経済苦境を指摘すると必ず反論する人たちが出てくる。それは訪朝経験者に多いのだが、中には「随分上向いている」「食糧難や貧困なんてな い」と語る人もいる。訪朝体験談はだいたい共通している。市内のイタリア食堂でピザと生ビールに舌鼓を打ち、遊園地の絶叫マシーンに乗り、30階を超える ような高層アパート郡を六本木ヒルズのようだったと形容する。かつてに比べて平壌市民の服装がカラフルで明るくなり、携帯電話を操る人の多さ、車が格段に 増えたことに驚く。

統計値をもって「上向きだ」と考える向きもある。例えば対外貿易。北朝鮮の2013年の貿易総額73億4000万ドルで前年比7.8%増加している (輸出32億2000万ドル、輸入は41億3000万ドル)。ちなみに08年は輸出11億3000万ドル、輸入は26億8500万ドルだったので、輸出は 三倍近い伸びを見せている(数値はいずれも大韓貿易投資振興公社、対韓国貿易は除く)。こ10年、北朝鮮の貿易が拡大の一途を辿ってきたのは事実である。

また、経済はプラス成長を続けているという推定も出ている。韓国銀行が6月に発表した「2013年北朝鮮経済成長率推定結果」によると、一人当たり の国民総所得(GNI)は約13万8000円で、実質国内総生産(GDP)を基準とした成長率は11年の0.8%、12年の1.3%に続き、三年連続で成 長したとしている(ただし北朝鮮経済は実態不明な部分があまりにも多く、韓銀の推定値も確度が低い)。

さて実態はどうなのか?まず訪朝者たちの「平壌の発展」の印象についてであるが、人々の服装がカラフルになったのも、車や携帯電話利用者が増えたの も事実である(携帯電話利用者は二〇〇万人を超えた)。一部の人の個人消費が伸びているのは間違いない。しかし肝心なのは、そのことと金正恩氏の財布=統 治資金に余裕があるのかはまったく別の話だということだ。
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