地方都市に「謎の日本人」はどれぐらいのいるのだろうか?写真は北朝鮮第三の都市・清津(チョンジン)の駅。2013年9月 アジアプレス撮影

地方都市に「謎の日本人」はどれぐらいのいるのだろうか?写真は北朝鮮第三の都市・清津(チョンジン)の駅。2013年9月 アジアプレス撮影

<金正恩政権の対日交渉戦略は何か>記事一覧

「謎の日本人」を隠し玉に 突然の粛清激化で交渉難航も
◇ 「謎の日本人」に帰国勧める保衛部

7月下旬から8月中旬にかけ、北朝鮮内の複数の取材協力者たちから、「謎の日本人」の調査に関連して追加連絡が入った。ある地方都市の保衛部の高級幹部は次のように説明したという。

「日本から北朝鮮に来る際に名乗った名前が本名なのか、日本で罪を犯したり、借金から逃れるために来たのではないかなどを、保衛部が調査してきた。 しかし、本人もなかなか本当のことを話さないので、保衛部員が近隣の住民を接近させて、それとなく身元を聞き出すことまでさせている。保衛部員は『日本に 帰りたかったから帰してやるから』と帰国意思についても訊いている」

筆者もよく知らなかったのだが、北朝鮮に自分の意思で渡り地方都市で一般住民として普通に暮らす日本人が少なからず存在するようである。社会主義や 北朝鮮の体制に憧れを抱いた人、個人的なトラブルや人間関係に問題が生じて日本にいづらくなった人、罪を犯して日本から国外に脱出した人などではないかと 推測している。

ではなぜ、この「謎の日本人」の調査に北朝鮮当局が熱心になっているのだろうか?その理由について、保衛部幹部は次のように述べたという。

「向こう(日本)では、朝鮮が日本人を拉致したとしきりに言っているが、問題があって(自分の意思で)朝鮮に入国した日本人がたくさんいる。朝鮮にいる日本人は拉致されてきた人ばかりでないことを証明するため、これらの人の身元を調査して日本帰ることを勧めている」

◇ 「特定失踪者」も含まれる?在留日本人の調査報告

日本政府は、「拉致された可能性を排除できない行方不明者」についても、北朝鮮側に調査を求めている。金正恩政権としては、日本側に提示する拉致被 害者の数を増やすことは避けたいはずで、日本側のリストに名のある人で、自分の意思で北朝鮮に入国した「謎の日本人」を探して報告したいのではないかと、 筆者は推測している。

しかし、この「謎の日本人」が、北朝鮮入国に際して偽名を使っていたり、経歴を正直に申告していなかったりすると、リストと符合しないケースが出てくる。それで、まず保衛部を通じて「謎の日本人」の身元を再調査しつつ日本への帰国を勧めていたのではないか。

ただ、北朝鮮内部の取材協力者たちは、日本人配偶者や「謎の日本人」たちは、当局の勧めがあっても決して「日本に行きたい」と言わないだろうと口を揃える。
「北朝鮮では、一言の失敗で逮捕されてしまう。皆それを知っているから、誰が正直に『日本の親戚を探したい』『日本に行きたい』と言うだろうか。保衛部では、身元や経歴についても正直に言えば日本に送ってやると説得しているが、うまくいっていないようだ」

その後の我が取材チームの調査によれば、帰還事業で北朝鮮に渡った日本人妻と「謎の日本人」については、親戚訪問という形で日本に一時帰国させる準備を始たようである。8月初めから一箇所に集めて合宿のような形で日本行きのための教育をしていたという。
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