武装組織イスラム国(IS)が「首都」とするシリアのラッカ。しかし、電気はほとんど供給されず、発電機を使おうにも、市民には燃料を買う お金もない。路上では宗教警察が市民を監視し、空からはアサド軍の空爆に加え、米軍主導の有志連合の空爆で死傷者も出ている。「私たちにとって、ここは地 獄だ」と、ラッカ市内で反ISの活動を続けるアブイブラヒム・アルラッカウィ氏は話す。直接通話によるインタビューは2月上旬行われた。【取材:玉本英 子】

ISには外国人義勇兵が加わる。その多くがトルコ国境を越えて入り込んでくる。写真はクルド組織がIS戦闘員から押収したパスポートや身分証。トルコ、リビア、イエメン、チュニジア、ロシアなど国籍はさまざまだ。(2014年9月 シリア・カミシュリで撮影・玉本英子)

ISには外国人義勇兵が加わる。その多くがトルコ国境を越えて入り込んでくる。写真はクルド組織がIS戦闘員から押収したパスポートや身分証。トルコ、リビア、イエメン、チュニジア、ロシアなど国籍はさまざまだ。(2014年9月 シリア・カミシュリで撮影・玉本英子)

 

多くの外国人戦闘員、宗教警察が社会統制

◆市民生活で他に何が大変ですか?

アルラッカウィ氏:すべてが困難です。たとえば電気です。市内では1日にかろうじて電気がくるのは2時間ほど。電気が止まると水も止まります。市民は発電機を使いたいのですが、給油施設が空爆で破壊されたため、燃料の価格が高騰しています。

電気供給がストップしていることは、あらゆることに影響します。主食のナン(パン)ですが、工場では通常、電気で機械を稼動させナンを製造します。 現在、発電機をまわしていますが、燃料価格の高騰で、ナンの値段も上がっていきます。一食分220シリアポンド(約110円)もします。ISが町を支配する前の倍以上の値段です。

◆市民はどうやってお金を得ているのですか?
アルラッカウィ氏:公務員は、ISの法の下の新しい統治機構で、多くがアサド政権時代と同じポジションで働いています。そして今もシリア政府から給料を受け取っています。(※アサド政権は、現在もシリア全土を治めているという立場であるため、公務員の給料を払い続けている、とシリア人たちは言う) ただ、ラッカでは給料をもらえません。公務員は3か月に一度、アサド政権の町(アレッポの政権地区)へ給料を取りに行かなくてはなりません。

しかし、それ も今では、難しくなりました。ISが若年層の市民が町の外へ行くことを禁止したからです。アサド政権地区へ行くと殺されると彼らは言いますが、若者たちが 逃げ出すのを恐れているからだと思います。現在、市民の多くは商売、たとえば野菜とか果物とか、何らかの商品を売ったり、交換したりするなどして生計をた てようとしています。そしてISはそこから税金をとろうとするのです。

◆ISの戦闘員はどんな人たちですか?
アルラッカウィ氏:市内には多くの外国人戦闘員がいます。あらゆるところで見かけます。アジ ア人もいます。日本人か中国人か...。彼らの言葉が分からないのでどこの国の人か分かりませんが、(東洋人も)見かけます。ほかにはヨーロッパ、アメリ カ、オーストラリア人など...。彼らは特別待遇を受けているようです。ISは世界中から戦闘員が来ることを奨励しているので、外国人は恵まれた生活をし ています。

◆地元住民の戦闘員はどうなのですか?
アルラッカウィ氏:外国人の方が地位は上です。でも地元の戦闘員もお金をもらっています。地元の戦闘員はやりたい放題しています。 市民が最も嫌っているのがアラブ人(シリア、イラクなどのアラブ諸国出身者)戦闘員なのです。外国人(欧米、アジアなど)の戦闘員は見かけますが、 私たちと関わることがありません。言葉も通じないし、彼らが話しかけてくることもない。壁のようなものがあるのです。ラッカには英語を話せる人もいます が、外国人戦闘員に話しかけることなんてしません。もし話しかけでもしたら外国人戦闘員は「なぜ自分に」と不信がるでしょう。その前に宗教警察が飛んできて私たちをスパイと思うでしょう。それで逮捕されるかもしれないし、殺されるかもしれない。

◆女性たち、子どもたちはどういう状況でしょうか?

アルラッカウィ氏:ISはラッカに暮らす、すべての人をコントロールしようとしています。女 性たちは外出の時、黒いヒジャブ(ベール)を被らなければいけません。もし通りで被っていなければ逮捕され、刑務所行きです。家族の男性が謝罪の紙を書い て裁判所へ提出しなければ出所できません。それでも女性がヒジャブを被らない場合はむち打ちの刑です。ほとんどの女性は恐れから、必要な時以外は外に出 ず、家でじっとしています。市内では一年前からすべての学校、大学も閉鎖されたままです。子どもたちに教育の機会はありません。イスラム寺院の中でコーラ ンを勉強する幼い子どものための学校のようなものはありますが...。

朝はアサド政権軍の空爆を受け、夜は米軍など有志連合軍の空爆におびえています。そして日中はISに監視され、死刑があり、斬首がある。市民にとって、ここは地獄です。(つづく)

内戦で輸送網が寸断され、商品や燃料が高騰。市民生活は困窮を極めている。女性は外出時、真っ黒いヒジャブを着用しなくてはならなくなった。(IS映像)

内戦で輸送網が寸断され、商品や燃料が高騰。市民生活は困窮を極めている。女性は外出時、真っ黒いヒジャブを着用しなくてはならなくなった。(IS映像)

インドネシアから参加したと名乗る外国人戦闘員。部隊によるが外国人戦闘員は地元住民の労働者の何倍もの給料をもらうなど、厚遇されているといわれる。(IS映像)

インドネシアから参加したと名乗る外国人戦闘員。部隊によるが外国人戦闘員は地元住民の労働者の何倍もの給料をもらうなど、厚遇されているといわれる。(IS映像)

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