◆すでに原爆130万発分の毒物が日本に

R: その夢のエネルギーが全く夢のある話ではないということになったのはなぜでしょう。結局、人類は核分裂をコントロールしきれないということが判明したからですか。

小出:はい。多くの理由がありますが、当然、核分裂反応を人類がコントロールできない場合はあるだろうし、もしそうなってしまうと大変な被害が出てしまうので、そういう技術は使うべきでないと私は思うようになりました。

R:ほかにはどういう懸念がありますか。

小出:たくさんありますけれども、仮に制御を続けることが出来たとしても、核分裂反応というものを使ってしまいますと、核分裂生成物、いわゆる皆さんが「死の灰」と呼ぶものが生まれてしまうのです。

そのできる量たるや膨大な量ができてしまいます。例えば、100万キロワットという標準的な出力の原子力発電所を1年間運転させるために、1トンの ウランを核分裂させます。すると、1トンの「核分裂生成物」ができるわけです。広島原爆で核分裂させたウランはわずか800グラム、まき散らした「核分裂 生成物」も800グラムだったのです。

R:原爆とは比べ物にならないほどの量ですね。

小出:つまり、原子力発電所1基を1年運転させるごとに、広島原爆1000発分を超える「核分裂生成物」を生み出してしまうのです。福島第一原子力発電所はそれを今、環境にまき散らしているわけです。

けれども、仮に大きな事故にならなかったとしても、生み出した核分裂生成物は消えないし、それを消す力を人類は持っていない。その毒物は10万年、 あるいは100万年どこかに閉じ込めなければいけないという毒物なのです。私たちの世代が「電気が欲しい」と言って原子力を使ってしまうと、10万年、 100万年後の私たちの子々孫々に、その毒物を押し付けることになるのです。そんなことは、到底許されないだろうと私は思います。

R:なるほど。10万年後、100万年後まで子々孫々に影響を与え続けるということを止めるためには、ずっと遡って今、原発を止めないといけないということになるのですね。

小出:今すぐに原発を止めたとしても、日本という私たちの国では1966年から原子力発電というのを始めてしまっているので、すでに今日までに、広島原爆がまき散らした核分裂生成物の130万発分を作ってしまっています。

R:130万発分ですか。

小出:はい。もう気が遠くなるというか、その危険をどう捉えていいかわからない程のものをすでにつくってしまっ たのです。私たちの世代がこの何十年かの間に、「電気が欲しい」「豊かに生きたい」という欲望のもとに、本当に信じがたい程の毒物を生んでしまい、それを これからの子々孫々に押し付けなければいけないということになってしまっているのです。もう本当にいい加減に目を覚まさなければいけないと私は思います。

 

「小出裕章さんに聞く 原発問題」まとめ

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