元IS戦闘員、モハメッド・イブラヒムの生活は苦しく、兄2人が米軍とイラク軍に殺された恨みからISに志願した(今年4月イラク北部アルビルにて撮影・玉本英子)

元IS戦闘員、モハメッド・イブラヒムの生活は苦しく、兄2人が米軍とイラク軍に殺された恨みからISに志願した(今年4月イラク北部アルビルにて撮影・玉本英子)

 

◆戦争の加害者は被害者でもあった
イラク北部でスンニ派武装組織「イスラム国」(IS)と対峙(たいじ)するのは、政府軍とクルド部隊ペシュメルガだ。今年2月、部隊に同行し、最前線に 入った。ISが支配するイラク第2の都市モスルに近い要衝だ。自爆車両の突入を阻止するため、深い塹壕が掘られ、すぐ先の支配地域からは連日、砲弾が撃ち 込まれる。

司令所そばの地面には無造作に2つの死体が横たわっていた。前夜に侵入を図って射殺されたIS戦闘員は20代前半。地元の男たちは隣村の青年だろうと話す。モスルのIS部隊の8割は地元民で、残りは外国人という。

クルド治安当局に拘束されたイラク人の元戦闘員2人に面会し、話を聞くことができた。

濃緑の瞳をしたアリ・ハラフ(26)は文具屋で働いていたが、昨年6月、ISが町を制圧すると経営者は逃げ出し、仕事を失った。親戚に誘われるまま に戦闘員となる。部隊からは毎月20万ディナール(約2万円)の給料が出た。店員時代の半分だったが、妻と1歳の息子を養わなければならなかった。

2011年の米軍撤退後、シーア派のマリキ政権はスンニ派の多いモスルでも住民に厳しい態度でのぞむようになった。アリは武装勢力に協力した容疑をかけら れ逮捕され、治安部隊の拷問を受けた。水をかけられたまま電気を何度も通された。必ずシーア派に報復してやる、アリはそう思いをつのらせた。ISに入隊す ると訓練を受ける間もなく、前線へと送られた。飛んでくる銃弾を前に体が震えるばかりだったという。今は後悔している、と両腕にはめられた手錠を見つめ、 私の前で、うなだれた。
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