NHK放送センター(東京都渋谷区)撮影:アジアプレス

NHK放送センター(東京都渋谷区)撮影:アジアプレス

問題となる放送内容
(1)番組全体構成の問題
本件番組は、タイトル自体に「不正」と表現し、「小保方氏(申立人)が、故意的に盗んだES細胞を用いて実験結果をねつ造した」とするストーリーで作られ ており、視聴者において、申立人が極めて悪質な実験ねつ造者であったとする強い印象を与えるものとなっている。科学は、本来は科学者間での研究を通じて解 明がなされていくものであるが、このような内容の番組を放送したことは、到底許容できない。例えて言えば、無罪推定が働くべき刑事被疑者を実名でもって犯 罪者であることを強く匂わし糾弾するものに等しく、まさに典型的な人権侵害行為である。

(2)偏向的なイメージ構成の問題
本件番組は、その冒頭で、ネイチャー論文の内容について、「専門家」と紹介された数名の者に、「こういうのはありえないって感じ」、「うっかりしたミスで はないよね」との発言を行わせた上で、「専門家たちは画像やグラフの7割以上に何らかの疑義や不自然な点があると指摘した」とナレーションに述べさせてい る。この番組は、科学的検証番組としながら、7割もの何らかの疑義がどのように具体的にあるかについて説明がないまま、「7割以上の不正」があったと、強 い意図をもって申立人らを断罪した。その上で、さまざまな場面で、色調及びBGMを巧みに使った意図的なイメージ操作がなされ、あたかもサスペンスドラマ を見ているかのような番組構成をして、視聴者に強い印象刷り込みを行ったもので、到底、公正な番組作りとは言えない。

(3)根拠なき「窃盗犯」構成
本件番組は、全体の構成として、申立人が理研内の若山研究室にあったES細胞を「盗み」、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたかのようなイメー ジを視聴者に想像させる内容となっている。つまり、若山氏が飼育していたマウスを申立人に渡して、そのマウスで申立人がSTAP細胞を作り、それを若山氏 に戻されて万能細胞の可能性を調べていたが、そのマウスの遺伝子が一致するはずだが「二つの遺伝子は異なるものだった」と断定的にナレーションで述べさ せ、その後に、若山研が山梨大に移った後の小保方研究室の冷凍庫から容器と写真(出所不明)を画面上に出した上で、ナレーションは「中身はES細胞」と断 定させた。さらにその容器について、氏名不詳の留学生が記者の電話に出て、驚きの声を挙げつつ「それを直接私が渡したことはない」と言わせ、続けてのナ レーションは、「なぜ、このES細胞が小保方氏(申立人)の研究室が使う冷凍庫から見つかったのか、私たちは、小保方氏(申立人)に、こうした疑問に答え て欲しいと考えている。」と、あたかも申立人が「ES細胞を盗んだ」ことが事実であるかのように断定的に番組作りをした。
理研は、桂勲委員長による「研究論文に関する調査委員会」を立ち上げ、同年12月25日に、「研究論文に関する調査報告書」(桂調査委員会報告書)を公表 したが、この報告書は、残存試料の分析からES細胞の混入が生じていたとしたが、混入行為者の特定につながる証拠は得られず、混入が故意又は過失であった かも判断が困難で、不正と断定するに足りる証拠はないとした。また、同報告書は、フリーザーに残っていたとされる試料について、申立人、若山氏をはじめ、 若山研メンバーは全く知らないという回答であった。つまり、番組で指摘した申立人の冷蔵庫にあったとされる細胞がなぜ若山研にあったかすら「分からない」 状態だと指摘した。これからしても、本件番組は、何らの客観的証拠もないままに作られたもので極めて大きな人権侵害である。

(4)直前に根拠をなくした事実による構成
本件番組では、当時論拠を失っていたある事実をもとに番組構成をした。
本件番組では、若山氏が極めてタイミング良く、STAP幹細胞が若山氏の渡したマウス由来でない証拠が見つかった瞬間という不自然な映像を流した。しか し、若山氏は、同年6月16日の会見で「STAP幹細胞は若山研究室にないマウスに由来している」という解析結果を記者会見で公表していたが、その後の同 年7月はじめに、これが間違いであったことを認め、同月22日には、現在所属する山梨大学のホームページにおいて正式に発表した。同日には理研においても 同様に公表がなされ、報道もされた。ところが、NHKは、その事実には触れずに本件番組を構成したことになる。つまり、この点は科学的な検証を行う以上は 必ず指摘しなくてはならない矛盾点であったはずにもかかわらず、「捏造」ストーリーからはずれる「都合の悪い材料」には触れないでつくられた本件番組は、 およそ不公正で人権侵害をなす番組構成である。

(5)実験ノートに対する問題点~著作権法違反
本件番組では、NHKが独自に入手したという申立人の実験ノートのコピーが大きく放映されたが、実験ノートの所有権は理研に帰属するが、その著作権は申立 人にある。しかし、著作権者が当該著作物の内容の公開を認めていないにも関わらず、無断でその内容を放送した行為は、明白な著作権侵害行為である。当該実 験ノートは、当時(現在も)、理研内において厳重に保管されており、その写しは、調査委員会にのみ交付されたものであって、調査目的以外では一切使用しな いことになっていた。何者かが違法に持ち出してコピーしたか、調査委員会委員やその関係者から違法に流出したかと思われるが、前者ならば窃盗罪等に該当 し、後者ならば、理研の秘密保持に対する違反になるが本件番組は、そういった個人の権利を侵害する違法行為の上に立って作成されたものである。

(6)実験ノートに対する問題点~引用のミスリード
本件番組では、STAP細胞からキメラマウス作製成功までの過程について、その経過が申立人の実験ノートには書かれていないと紹介した、しかし、キメラマ ウス作製過程は、若山氏担当部分であって、同氏にその実験ノート部分を確認すればよい問題であって、上記のように断定的に述べたのは、申立人に問題がある かのような印象を与えるミスリードである。
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