深刻な少女の性被害、性搾取
元子ども兵だった少女たちは、さらなる苦難に直面する。元兵士が社会に復帰することを支援するプログラムでは、治安の回復を主たる目的としている場合が多く、女子はほとんど対象とならない(34)。

一般の住民からも、同じ元子ども兵であっても、少女には厳しい目が向けられる。兵士として身についてしまった乱暴な言動は、男性の場合は許されても、女性の場合は受け入れられにくい。

わけても深刻な問題となるのは、少女が、性的な搾取・虐待を受けていた場合である。彼女たちは、性的に厳しい規範のある社会では、「汚れた」存在として卑しまれる。上官の「夫」から遺棄された少女は、子どもを連れている場合が少なくない(35)。

面倒をみてくれる家族やコミュニティーがない場合、彼女らは、自活していかねばならないが、子どもをそばにおいて働くことを強いられる(36)。

※本稿の初出は2014年6月発行の「京女法学」第6号に収録された、市川ひろみさんの論考『冷戦後の戦争と子どもの犠牲』です。

いちかわ・ひろみ
京都女子大学法学部教授。同志社大学文学部、大阪大学法学部卒業。神戸大学法学研究科修了。専門は国際関係論・平和研究。著書に『兵役拒否の思想─市民的 不服従の理念と展開』(明石書店)。共著に『地域紛争の構図 』(晃洋書房)、『国際関係のなかの子ども』(御茶の水書房)ほか。
【以下注】
25子ども兵士禁止のための世界連合(Coalition to Stop the Use of Child Soldiers)による3~4年ごとに出される報告書は、ホームページからダウンロードできる。http://www.child-soldiers.org/global_report_reader.php?id=97 戦場で武力を行使する子どもについては、松本、前掲書および市川、前掲論文(2012年)、266-269頁参照。
26 P.W. Singer, 'Talk is cheep: Getting Serious About Preventing Child Soldiers', Cornell International Law Journal, vol.37, 2004, p.562.
27 Rachel Brett and Irma Specht, Young Soldiers: Why they Choose to Fight, Boulder, CO: Lynne Rienner Publishers, 2004.
28 シエラレオネでかつて司令官も勤めた16歳の少女は、次のように証言している。「私は、私が(軍隊で)学んだこと・・・について誇りをもっている。これらは政府から与えられたのではない。他にどのようにして私は将来をもてただろう?」Michael Wessells, "A Living Wage: The importance of livelihood in reintegrating former child soldiers , Neil Boothby, Alison Strang, and Michael Wessells, A World Turned Upside Down: Social Ecological Approaches to Children in War Zones, Kumarian Press, Inc., Bloomfield, 2006, p.184.
29 Mark A. Drumble, Reimaging Child Soldiers in International Law and Policy, Oxford University Press, 2012, p.55.
30 Machel, op. cit., pp. 12-14.
31 Ynonne E. Keairn, The Voices of Girl Child Soldiers: Colombia, Quaker United Nations Office, Geneva, Jan. 2003, p.15.
32市川、前掲論文(2012年)、268~272頁参照。
33 1998年から2004年の16年間にわたって行われた調査による。誘拐された時6歳だったフラニセは、家族の元に戻ったが、23歳になっても結婚せず、ほとんどの時間を一人で過ごし、暴力的で気分のむらがあり、妄想的だった。近所の人々によると、「戦闘は彼の心の中で続いていた」のだった。14歳の時にモザンビーク民族抵抗運動(RENAMO)に加わり、若者旅団のリーダーになったフェルナンドは、学校はもとより家族にもなじめなかった。仕事に就こうともせず、男友だちと飲み、兵士だったころの「よい時代」を懐かしんでいた。彼は、ある夜、酔って警官を襲ったために射殺された。Neil Boothby, "When Former Child Soldiers Grow Up: The Key to reintegration and reconciliation", Neil Boothby, Alison Strang, and Michael Wessells, A World Turned Upside Down: Social Ecological Approaches to Children in War Zones, Kumarian Press, Inc., Bloomfield, 2006,p.168-169
34 Susan Mckay, "Girlhoods stolen: The plight of girl soldiers during and after armed conflict", Boothby et.al., op. cit., p.99.
35 Michael G. Wessells, The Recruitment and Use of Girls in Armed Forces and Groups in Angola: Implicaitons for Ethical Research and Reintegration, Ford Institute for Human Security, 2007. (http://kms1.isn.ethz.ch/serviceengine/Files/ISN/45789/ipublicationdocument_singledocument/d0a1d86a-2054-44eb-adf1-dc7bb57f2aca/en/2007_Recruitment_Use_Girls.pdf, 2012年7月12日閲覧)
36 Mckay, op. cit., p.102.

 

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