◆「子どもたち脱出させて」と突然の電話

Aさんからの切ない、叶えようのない訴えを聞く2カ月前、韓国か ら聞き覚えのない声の電話がかかって来た。自分は数年前に脱北した者で、北朝鮮に残してきた子供たちを何とかして探して連れて来たい。ついては手助けをし てほしい、と言うのだった。私の連絡先は脱北者の知人から聞いたという。

年に数回、このような電話がかかってくる。どこかの筋の「引っ掛け」かもしれないという警戒もあって、このような連絡がある度に憂鬱になる。気の毒だが、一介のフリー記者に過ぎない私にそんな力はないことを伝えた。

すると、「私は○○県に生まれて北朝鮮に渡った在日帰国者です。なんとか助けてもらえませんか?」と懇願された。

母親は日本人で関西の○○県の出身だという。

「私などに現実にできることは、ご家族に日本から荷物を送る手伝いぐらいです」と私。それでも彼は、家族との絆が復活できるかもしれないと喜んでくれた。

北朝鮮からの脱出を手助けしてほしいとお願いされることが、この数年確実に増えている。つまり、金正恩氏が執権してからのことである。今、北朝鮮社会を覆っているのは恐怖だ。隣国の民の心が、どんどん若い「指導者」から離れていっているのを実感する。

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