◆当局による制裁隠し

北朝鮮当局は、核・ロケット実験によって、国際社会、とりわけ中国も参加する新たな、またこれまでより強力な経済制裁が科せられたことを、5月中旬時点で一般住民に説明していないようだ。「米帝国主義者とその追随者による経済封鎖が続いている」と、官営メディアや政治学習会などで言及しているが、具体的な制裁の内容、品目、そして理由について一切説明はないと、北朝鮮国内の取材協力者たちは証言する。あえて隠しているという指摘も多い。

「人民が望みもしない核実験を強行したために、開城(ケソン)工業団地が閉鎖になった上、中国からも制裁を受けることになって経済が混乱したら、人民は皆、金正恩政権に背を向けると思います」と平安南道の取材協力者は言う。複数の税関に出向いてもらい調べたが、税関職員たちは、以前より中国との物流量が減っているとしながらも、経済制裁の影響であるとは絶対に言わないそうである。

◆物価推移についての若干の補足

2009年11月、当時の金正日政権は突然、通貨ウォンの切り替え=「貨幣交換」(デノミ)を実施した。新ウォンは百分の一に切り下げられた。交換額や交換期限に制約が課されたため、大きな混乱が発生したのは周知のことである。

この時、公定価格の改訂が行われた。また、北朝鮮政府は諸物資の価格を02年7月に実施した「7.1経済管理改善措置」時点の水準にするよう指導すると発表。例えば白米の価格は市場で1キロ44ウォンで販売するよう指導していたようである(地域によっては25ウォンにしたという証言もある)。一方で公定の給与は下げずに据え置いた。

このデノミ措置に伴い、2009年12月初めの白米、トウモロコシなどの市場の食糧取引価格は、いったん新貨幣で15~40ウォン程度になった。この時の物価を起点として推移表を作成した。

デノミ実施から数年間、北朝鮮は凄まじいハイパーインフレに見舞われた。諸物価はいずれも100倍以上高騰した。ウォンの対中国元レートは下落を続けた。

ところが、2013年春頃から物価上昇のペースが落ち、2014年7月頃をピークに物価は下落し始める。対人民元レートも安定していった。その理由は、対中国輸出の増大などで流入する外貨量が増えたことが一因ではないかと考えられるが、不明な点が多く、別の機会に詳しい分析を試みたいと思う。
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