◆金正恩政権は市場要素を部分的導入
市場に対する金正恩政権の立場はどうか? 2011年末に金正日が急死したことで発足した金正恩政権は、2013年に新しい社会主義経済管理方法を導入して、工業においては、企業の独立採算制や、「企業が国家の生産計画とは別に独自の新製品を開発、生産、販売することができるようにする生産組織権や貿易および合弁合作権が企業所に付与」するなど、企業の裁量を拡大させた。農業でも同年に「圃田担当制」を導入して、協同農場の農民が担当する田畑の生産物の処分権を拡大させた。※5

だが金正恩政権は、市場をあくまで社会主義経済システムを補完する限定的な役割、空間とする立場を今も固守している。

「経済管理の分権化が『計画経済と市場経済の共存』を促進させ、最終的には『生産手段の民営化』を招くとの指摘に対して、内閣の経済行政担当者は『朝鮮は、社会主義経済制度の基礎である生産手段に対する社会主義的所有を固守している』と反論している」※6

このように、わざわざ「北朝鮮で始まった措置は、断固『改革開放』ではない」と念を押すために、朝鮮総連の機関紙「朝鮮新報」で、記事が繰り返し発表されているようで興味深い。

ここまで見て来たように、市場経済の発達、拡散によって北朝鮮社会は大きく変わることになり、かつてない流動性を持つようになった。人もモノも金も情報も活発に流通し、国有不動産が取引され労働市場まで生まれているのだ。

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