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2月4日に大阪で行われた市民講座「南スーダン駆けつけ警護・武力行使の無力性と憲法の有効性」における、元自衛官の泥憲和さんの解説要綱をお送りする2回目。(矢野宏/新聞うずみ火)

大阪で行われた市民講座「南スーダン駆けつけ警護・武力行使の無力性と憲法の有効性」で講演する元自衛官の泥憲和さん(撮影・樋口元義さん)

◆南スーダン政府軍さえ敵になるかもしれない

南スーダン現地ではどのような受け止められ方をされているのでしょうか。現地ラジオ局のツイッターに、南スーダンの紀谷昌彦駐日大使の発言が紹介されています。紀谷大使は、「日本の制限された平和維持部隊は工兵であり、実力行使をしない」と言っているのです。駆けつけ警護の任務を与えられたのに実力行使しない、と言っている。

昨年11月の地元の新聞にも紀谷大使の発言が掲載されていました。「交代する350人の部隊は実力を行使する権限を欠いていると語った」と。日本政府に権限を与えられて派遣されたのに、日本の大使は「権限はない」と言っているのです。

どうして、紀谷大使はこんな嘘をつかなくてはいけないのか。今までは武力行使しないから自衛隊員は命を守ることができた。でも、これから戦うと言ったとたんに、南スーダン政府軍も敵になる。自分たちも狙われるわけですから、駆けつけ警護できるようになりましたと言えないわけです。現地と日本政府の情勢認識はまったくかけ離れている。

日本政府が与えた駆けつけ警護とはどんな任務か。昨年7月に政府軍と反政府軍との大規模な戦闘が起きた時のAPニュースを見ると、「暴走南スーダン兵士 外国人をレイプ 地元民を殺害」という見出しとともに、本文にこう書かれています。「1マイルも離れていないところに駐留する国連PKO部隊(中国、エチオピア、ネパールの部隊)は、命がけの救助要請を拒否した。米大使館を含む大使館なども同様だった」。

アメリカは南スーダンPKOに軍隊を出していませんが、大使館警備の部隊はいます。その部隊に救助を要請したのに出動を拒否したのです。駆けつけ警護なんて武力が違い過ぎて何もできないわけです。本格的な政府軍と出張軍みたいな軍隊が戦ったとしても太刀打ちできるはずがない。

自衛隊も事情は同じです。できるはずがないのに、もっと武装強化して駆けつけ警護をしたらどうなるのか。その実例があります。1993年のソマリアの首都で起きた「モガディシュの戦闘」です。アメリカ軍が特殊部隊を結成して、ソマリア民兵の将軍を捉えようとしたが、失敗しました。「米軍特殊部隊がソマリア民兵に包囲されて孤立。救出に向かった駆けつけ警護部隊が包囲され、さらに大きな被害を出した」と報じられています。
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