金正恩氏の演説は、「腐り切ったブルジョア反動文化を圧倒」できていない現実を物語っていると言えるだろう。2017年度に軍事境界線(DMZ)を越えて直接韓国に亡命した人は兵士4人を含め15人に上るが、その大半が「韓流ドラマを見て韓国に憧れを持った」と供述しているという。

もっとも警備が厳格なDMZを越えて、特に若い兵士が次々に韓国逃げ出した事態は、金正恩政権にとって衝撃だったはずだ。今後、経済制裁によって国内経済の悪化は不可避だ。国内の動揺を防ぎ統制を維持するために、「服従しない者は容赦しない」をあらためて宣言する必要があった。それが金正恩氏の演説と風紀取締りの実施として現れたのだろう。

服装や風紀紊乱を取り締まる「糾察隊」に検束された二人の若い女性。2008年10月黄海南道海州(ヘジュ)市にてシム・ウィチョン撮影(アジアプレス)

さて、この風紀取締りは度々行われてきた。例えば2016年4月、36年ぶりに開催された朝鮮労働党大会の直前には、全国で茶髪やポニーテール、ジーパンを着用した若者が街頭で検束され、罰として多くが江原道(カンウォンド)の建設工事現場に送られた。だが、家にも連絡されないままで、行方不明になった子供を心配した親たちが党の事務所前に集まって抗議する事態まで起こっている。

だが、外国の「資本主義退廃文化」の流入と拡散は止めようがなかった。なぜなら、金正恩氏自身がその役割を担ってきたからである。金正恩氏の肝いりで作られた牡丹峰(モランボン)楽団は、超ミニスカート姿で映画「ロッキー」のテーマ曲を演じ、ミッキーマウスの着ぐるみまで登場させた。

夫人の李雪主(リ・ソルジュ)氏は、しばしばミ短いスカートにブランドバッグを持って金正恩氏に随行する。国民に「あの程度までならOKなのだ」とお墨付きを与えたようなものだ。前出の取材協力者は「最近では、胸元がすっかり開いた服を着ている女性もいます」と述べた。

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