2016年にISを名乗る男がハッサンの親戚を経由して送り付けてきた携帯映像。「いま、イスラム国にいます」とアラビア語で話す次男(7歳・当時)の姿があった。

 

不安な日々のなか、ノビラスは精神的に限界をきたすようになっていた。そして2016年12月、末娘を連れて、イラクからトルコを経由して、密航船でドイツを目指した。10日かけてドイツにたどり着き、難民申請。

イラクに残ったハッサンは、親戚や知人からお金をかき集め、身代金を用意。男らが再度、接触してきた際に、身代金を払って、次男はシリアで解放された。

しかし、次男が見せた姿は、父には信じられないものだった。

シリア・ハサカで解放された次男と対面する父ハッサン。ところが拉致された2年半の間にISに洗脳されたのか、もともと話していたクルド語を忘れ、アラビア語しか話せなくなっていた。(2017年・家族撮影)

次男の解放から10日後、家族のもとを取材。だが彼は父を拒み、会話をしなかった。携帯ゲームばかりして、心を閉ざした状態だった。(2017年2月・クルド自治区・撮影:アブダル・アリ)

 

次男は「ISのおじさんのもとに帰りたい」と話し、父との会話を拒んだ。私には笑顔で接してくれた次男だが、ドイツの難民滞在施設から電話をかけてきた母ノビラスとも、話したがらなかった。ISの拉致生活のなかで、次男は心に大きな傷を負っていた。

三男と長女の行方はいまもわかっていない。
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