北朝鮮 地図

◆活気溢れる闇市場の実態

98年4月、私はその北朝鮮のジャンマダンに入る機会があった。場所は咸鏡北道の羅津先鋒(ラジンソンボン)市である。

羅津先鋒市は北朝鮮-中国-ロシアの国境が接する豆満江河口の都市で、北朝鮮政府が91年末に自由経済貿易地帯に指定した経済特区である。人口は約14万人で、他地域とは電気鉄条網で隔離されている。

入国の難しい北朝鮮にあって、招請状が必要だが唯一ノービザで入ることができる場所だ(取材直後の98年夏ごろになって、北朝鮮当局は自由の文句を削り、単に経済貿易地帯としてしまった。限定的選択的な市場経済導入の試みもうまくいってはいない。なお、2001年に羅先-ラソン市と市名が改められた)。

97年に続き二度目の訪問だが、驚いたことにこの時は案内員(監視)なしで出歩くことが許された。よく知られていることだが、北朝鮮では外国から来るあらゆる人間に案内員という名の監視が付き、行動が極端に制限される。在日朝鮮人の母国訪問時でさえそうだという。唯一の例外は親戚訪問の中国朝鮮族の若干の行動くらいだろうか。

私は可能な限り一人で街を歩き回った。そして、現地で出会った中国人からそっとジャンマダンの位置を聞き出し、時間があるたびに通った。

驚いたのは、その活気だった。住宅街の一角の露天の空間はごったがえしている。人手は売り手と買い手を合わせて3000~4000人はいるだろう。

売り手はほとんどが女性で、地べたに座り込んで品物を広げている。食べ物から衣類、雑貨、家具まで、物は豊富だ。一目で外国人だとわかるはずの私にも「買っておいきなさいよ」と頻繁に声がかかる。そこここで値段交渉の駆け引きが行われている。怒鳴り声、笑い声が飛びかう喧噪(けんそう)。人の営みが見える-そこはまさしくマーケットだった。(続く)

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