朝中国境から内陸に600キロ入った黒龍江省の寒村に潜伏中の白さん一家。2001年1月に撮影石丸次郎

◆強制送還の恐怖

北朝鮮脱出者を、私が「国際法上の難民」として扱うべきだと考える根拠のひとが、強制送還された後の迫害=過酷な処罰にあることはすでに述べた。

中国やロシアから強制送還された人々がどのように処罰されるのか、私が977月からずっと取材を続けている北朝鮮難民一家のケースを紹介しておこう。仮に白さん一家としておく。

白さんは咸鏡北道の都市部の工場で運転手をしていた。労働党員である。妻は職場を持たない主婦で、脱出前は子育てをしながら、闇市場で商売に精を出していた。97年の脱出時、長男は満10歳、長女は満7歳だった。

白さん一家4人は警察の摘発をおそれ、物音ひとつにもびくびくしながら、延辺の農村で暮らしていたのだが、99年春、突然車を乗り付けた難民摘発の警察に逮捕されてしまう。保護していた親戚は「村の誰かの密告に違いない」と今でも言う。

逮捕送還から1年余りたった2000年夏、一家は再び中国に脱出し親戚宅に転がり込む。ちょうど中国取材中だった私は、再脱出から数日後の一家に会った。

四人ともまっ黒に日焼けし困憊していた。特に白さんが酷かった。送還後、4ヵ月ほど収容されている間に病気を患ったのだという。殴られて前歯を三本失ったため、顔つきが縮んで老人のようになりはてていた。妻と二人の子供は2週間ほどで拘束を解かれ、元の居住地で白さんの釈放をずっと待っていたという。
次のページ:白さん一家は中国から北朝鮮当局に身柄を移送された...

★新着記事