◆北朝鮮民衆排除して南北交流?

金剛山観光の再開には、国連安保理による経済制裁の緩和が必要である。観光事業そのものは制裁の対象ではないが、北朝鮮への多額の資金の移転が禁じられているからだ。非核化の進展が必要ということになってくる。

今年に入って南北朝鮮の対話は一気に進んだ。軍事通信の復旧、南北当局者が常駐する開城(ケソン)の連絡事務所の開所、荒廃した北朝鮮の山林復旧を中心とする環境協力、防疫および保健・医療分野の協力の合意など、いくつも成果があった。

文大統領は、「優先して再開させる」と平壌宣言に書き込んだ金剛山観光をどうするつもりなのだろうか。かつてと同様に、北朝鮮の人々が金剛山から排除される事業でよしとするなら、それは南北対話の成果とも、交流とも呼べない。金正恩(キム・ジョンウン)政権に入山料を払って韓国人だけが楽しむリゾート契約に過ぎない。「人権大統領」の誉れ高き文在寅さんが、そんな愚を繰り返さないと信じたい。

最後に一つ付言。9月20日に南北両首脳は白頭山に一緒に登頂したが、金正恩氏の狙いの一つは韓国人観光客の誘致である。白頭山も北朝鮮の人々は取り上げられることにならないか心配だ。

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※射殺事件その後

観光客射殺事件で事業が中断された後、現代グループのヒョン・ジョンウン会長が2009年8月に北朝鮮を訪問し、金正日当時国防委員長に会って観光再開などに合意したが、李明博(イ・ミョンバク)政権は、真相究明と再発防止策について、事業者である現代ではなく、南北当局者間で説明すべしとしたが、金正日政権はそれを拒否した。

2010年4月8日、業を煮やした北朝鮮側は、韓国政府所有の離散家族面会所をはじめとした韓国側所有の不動産資産の没収、凍結を発表し、韓国側管理要員を追放した。さらに北朝鮮独自で中国人などへの観光事業を始めた(韓国側施設は利用されていないようである)。9月の文在寅大統領の平壌訪問で、金正恩政権は金剛山地区に設置された離散家族面会所の没収措置の解除要請に同意した。

※朝鮮半島東端の交通不便な場所を観光地として最初に開発したのは、実は植民地支配者たる日本であった。現在は使われていないが鉄道も引かれ、スキー場も作られた。大正から昭和にかけて観光案内本だけで数十冊が発刊され、金剛山は「日本の名山」のひとつに謳われた。それほどの絶景なのである。(石丸次郎)

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