イドリブ市内の住宅地の一角にある「家族の家」。国内外の民間人の支援を受けながら運営している。(2021年4月、イドリブ:ムハンマド・アル・アスマール撮影)

◆「教育は人の心を形づくる」との思いで

戦闘と空爆の恐怖、逮捕や身代金目当ての誘拐、さまよう避難民、電気と食糧の寸断、そして国民どうしの殺し合い……。それがシリア内戦の10年だった。誰もが他人のことなど考える余裕すらなくなる戦火の現実。打ち捨てられるように行き場を失った幼い孤児たちに助けの手を差し伸べ、懸命に支えてきたダハヌン園長のような人たちが何人もいたことに、私は胸を打たれた。

戦争の過酷な現場を見てきた子どもたち。ともに生活するなかで、徐々に落ち着きを取り戻すという。(2021年4月、イドリブ:ムハンマド・アル・アスマール撮影)

 

どんな世にも心ある教育者たちがいたことが、どれほどの救いとなったことだろう。園長は「教育は人の心を形づくる」との思いから、孤児たちを小学校にきちんと通わせ、戦乱で受けられなかった科目にも追いつけるようにしている。戦闘の影響や避難先を転々としたために学校に行けず、学年遅れになった子も少なくない。内戦は子どもたちにも深刻な影響を与えた。


勉強を教えるダハヌン園長。教育の大切さを知る園長は、子どもたちをすべて近くの小学校に通わせている。(2021年4月、イドリブ:ムハンマド・アル・アスマール撮影)

戦闘の影響や避難先を転々としたために学校に行けず、学年遅れになった子も少なくない。内戦は子どもたちにも深刻な影響を与えた。(2021年4月、イドリブ:ムハンマド・アル・アスマール撮影)

 

「家族の家」の小学4年生アヤットさん(11)は、空爆で父親を亡くし、この施設に母とやってきた。「シリアの子どもはずっと戦争しか知らない。何にも脅(おび)えずに暮らしたい。私が願うのはそれだけ」。アヤットさんはそう言った。

小学4年生アヤットさん(11歳)は、生まれてからずっと戦争だった。「何にも脅(おび)えずに暮らしたい」と話す。(2021年4月、イドリブ:「家族の家」提供)

現在、イドリブは反体制勢力(シャム解放機構、国民解放戦線など)が実効統治する。イドリブ近郊では反体制勢力と、アサド政権・ロシア軍との対峙が続く。(地図:坂本卓/アジアプレス)

(※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」2021年4月27日付記事に加筆したものです)