◆ISはシーア派ハザラ人を標的に

さらに、アフガン国内でも活動する過激派組織「イスラム国」(IS)が、シーア派ハザラ人への襲撃を繰り返す。礼拝所やバスが標的となり、数百人が死傷した。モハンマドさんの友人も襲撃の犠牲となった。

「ハザラであり、芸術家であることで、苦境が重なっている」と彼は言う。

アフガニスタンでも活動するISは、シーア派住民を狙った攻撃を繰り返す。画像はISが機関誌で「カブールで多神偶像崇拝者(シーア派)バスを襲撃し40名殺傷」と伝える記事。(資料:IS機関紙:2021年11月)

◆アフガン細密画への影響も懸念

腐敗した前政権よりタリバンがましと思う人がいる一方、他宗派住民や女性など多くの人が過酷な状況に直面している。タリバン内部には国際社会からの財政支援を望み、社会統制の緩和に柔軟な姿勢を見せる幹部もいれば、宗教に厳格な強硬派もいる。

2月下旬、美術学部がある公立大学が再開された。アフガン細密画を教えてきたヘラート大学の教授は、人物画が禁止されるのは間違いないと述べ、「歴史あるアフガニスタンの芸術が失われようとしている」と危惧する。

モハンマドさんの画材道具。摘発を恐れ、人物画は断念したが、創作活動は続けたいと話す。(写真:本人提供)

◆「希望つなぐため描き続ける」

モハンマドさんの美術研究所は閉じられたままだ。妻と3人の幼い子どもを養うために、車を売ったお金でなんとか生活をつないできたが、「もう限界」という。

彼はいったんやめていた絵を、再び描き始めた。人物画ではなく、抽象画だ。「芸術に希望をつなぐために、私は描き続けます」と、思いを私に伝えてきた。

5年前の写真。職場の閉鎖で職を失い、生活苦になったうえ、シーア派ハザラ人としても苦境に直面。アフガニスタンから国外に脱出した友人たちも少なくない。(写真:本人提供)

 

(※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」2022年3月8日付記事に加筆したものです)

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