ロシア軍の侵攻から2日目。ウクライナ脱出を決めたロジさん。(2月末・本人撮影)

◆内戦シリアからウクライナへ、そこで再び戦火が

「ウクライナを脱出しました。無事です」

2022年3月初め、シリア人青年、ロジ・モウサさん(23)からネットを通してメッセージが届いた。彼は昨年、働きながら大学進学を目指すためキーウ(キエフ)に渡った。シリア内戦から逃れ、新たな生活を始めたが、ロシア軍がウクライナに侵攻。キーウを脱出したロジさんに連絡をとり、話を聞いた。(玉本英子)

シリアからウクライナに渡り、働きながら大学進学を目指そうとしていた。そんな矢先に今回の軍事侵攻が起きた。(写真:キーウ市内で撮影・ロジさん提供)

侵攻後、ウクライナを脱出。ドイツにいる親戚の元へ向かうため、ポーランドを目指した。(写真:2月下旬・ロジさん提供)

◆悲惨な戦争の現実

シリア北部で、私がロジさんに出会ったのは、2年半前のことだ。地元メディアの記者として最前線の現場に入り、カメラで内戦の姿を記録し続けていた。シリアに派遣された米軍装甲車の車列を撮影し終えた彼は私に言った。

「ひとつの戦争がたとえ終わっても、どこかでまた別の戦争が起きる。この国も世界も、ずっとその繰り返しなんだ」

戦火に包まれるウクライナからポーランドに避難する人びと。「自分の故郷、シリアの姿が重なった」とロジさんは話す。(写真:2月下旬・ロジさん提供)

シリアの内戦は10年を超えた。内戦が始まったのはロジさんが中学2年生のときだ。

日増しに激化する戦闘と困窮する市民生活。人生で一番楽しい青年期のほとんどを、戦争の中で過ごした。アサド政権の政府軍や、それを支援するロシア軍による空爆が各地で繰り返された。瓦礫に埋もれた遺体、血まみれの子どもたち。悲惨な戦争の現実だった。

シリア北西部で独立系メディアの記者活動をしていた頃のロジさん。シリア内戦が始まった当時は、中学生だった。シリア内戦は10年を超えた。(写真:2016年・ロジさん提供)

ロジさんと家族はシリア北西アレッポでの生活を断念し、親の実家を頼って近郊のアフリンへ逃れた。ところが避難した先で、一家は再び戦火にさらされる。

2018年、隣国からトルコ軍が、「クルド人テロ組織排除」を名目にアフリンに侵攻。トルコ軍は、クルド勢力に敵対するシリア反体制派を後押しし、都市部や農村を次々と制圧していった。15万人が故郷を追われ、避難民となった。

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