◆目に見えない石綿飛散の不安

こうした状況のため、住民は石綿が飛散する不適正な作業が繰り返されているのではないかと懸念している。再開発区域から数軒先のアパートに約1年半前に引っ越してきた20代の男性はこう心配する。 「(再開発区域の細道は)車が来ないからほとんど毎日通るのですが、こんなに(解体の)騒音、振動がひどいとは思わなかった。でもそれ以上に石綿が不安。なにしろ目に見えないものなので……。騒音、振動は我慢すればいいですが、石綿は吸ったかどうかわからない。すごく不安ですね」 この男性は住民合意に基づいた再開発をめざす「上板橋のまちづくりを考える会」に参加するようになった。 「考える会」共同代表の武田仁さん(76歳)は「近隣住民から石綿飛散を心配する声はしばしば聞きます」と話す。 10月7日に区内で開催した学習会でも心配する声が上がった。参加者を3つの班にわけたグループ討議で、「万全の石綿対策を」「石綿問題の放置により通勤・通学・居住・労働者の健康管理があまりにも注目されていない」などの意見が出されたという。 5月以降、東京土建や「考える会」らは面会時や書面で再開発組合に石綿の調査結果を記録した報告書の閲覧や飛散防止対策の強化などを求めてきた。また板橋区に対しても同様に要望した。計1800筆を超える署名も区に提出している。 再開発組合は書面で「石綿事前調査結果報告書は、解体工事に従事する関係者の安全を守るために現場に備え付けており、第三者への開示は控えさせて頂きます」と閲覧拒否。飛散防止は「法令や規則、作業計画書に基づき、確実な調査の遂行と安全に解体工事を実施するように指導しております」などと現状の対応で問題ないとの見解だ。 区は「大防法では情報を公開させることまでは規定されておりません。適切に対応するよう伝えます」「アスベスト飛散防止策が徹底されるよう指導しております」などと書面で答えた。 いずれも実質的なゼロ回答である。再開発組合や区の対応は住民の不安に十分応えているとは言い難い。 石綿事前調査結果報告書の現場への備え付けは「国民の健康を保護」や「生活環境の保全」を目的とした大防法でも義務づけられている。つまり労働者だけでなく周辺住民なども保護対象なのだ。 同法を所管する環境省大気環境課は「工事関係者のみに限定する閲覧制限はない」と説明しており、心配に感じる住民に見せない理由はないはずだ。

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