◆壊死が始まる3時間がひとつのリミット

デニス隊長は、最前線の安定化拠点で負傷兵の救護にあたってきた。

「手足が吹き飛ばされた兵士もいます。命を救うのはもとより、手足の状態を最大限に保持することも求められます。あとで病院で修復、再建手術できるようするためです。止血帯を巻いてから、一般的には3時間で壊死が始まります。そのひとつのリミットを超えると、部位切断にいたることもあります」
<ウクライナ・兵士の肖像(6)>クプヤンシク戦線・闇の中の砲撃、第15作戦任務旅団(写真14枚)

最前線の現場で苦悶する隊長。「3時間で壊死が始まります。そのひとつのリミットを超えると、部位切断にいたることもあります」。(2025年4月・ドネツク州前線・撮影・玉本英子)
この日、腕を負傷して運ばれてきた兵士のX線写真。肘の関節付近に砲弾片がめり込んでいる。取り出すには切開手術をしなければならず、安定化拠点では血流を確保し、固定して応急処置したのち病院へと搬送した。(2025年4月・ドネツク州前線・撮影・玉本英子)

ロシア軍は砲弾の中に、フレシェット(ダーツ矢)と呼ばれる、4センチ前後の釘のような金属矢を仕込むことがある。炸裂すると無数のフレシェットが、体内深くに突き刺さる。殺傷力を高めるだけではなく、医療現場で、それをひとつずつ摘出する手間を割かせてリソース全体にダメージを与えることも目的だ。

最近は自爆ドローンによる被害が多いという。また、衛生中隊の隊員もドローンに狙われるため、負傷兵の収容や、安定化拠点への搬送にも深刻な影響が出ている。

ロシア軍が使うフレシェット弾。砲弾の中に、鋭い釘のようなフレシェット(ダーツ)状の羽がついた金属矢を大量に仕込む。爆発時に飛び散り、殺傷力を高めるために使われる。(2023年5月・ウクライナ南部・ヘルソン・撮影・玉本英子)
「手足を吹き飛ばされ、心停止の状態だった兵士を蘇生させたが、彼が生涯向き合うことになる苦悩を思うと、複雑な気持ちにさえなった。それでも命を救う使命を果たす」と語る隊長。(2025年4月・ドネツク州前線・撮影・玉本英子)

◆戦争の現実と命を救う使命

隊長は、つい先日、瀕死の状態で担ぎ込まれてきた、ある若い兵士について語ってくれた。心臓の鼓動はすでになく、裂傷は全身におよんでいた。爆発で両足首が吹き飛ばされ、両腕とも損壊、両目は損傷していた。腹と胸に多数の金属片がめり込んでいた。医療チームの必死の蘇生で、心臓が動き出した。

「彼の命を蘇らせることはできた。でも、彼は残りの人生で、ひとりでは何もできないほどの障害を抱え、苦悩するでしょう。ずっと介護が必要です。それを乗り越えていけるか。生きて帰還できても、家族は様々な困難に直面する。なぜあのとき死なせてくれなかったのか、と彼は私たちを恨むかもしれない。生きるか死ぬか、どちらが良かったのか分からない複雑な気持ちにさえなりました。それでも私たちは、命を救うという使命を果たすだけです」

「手足を吹き飛ばされ、心停止の状態だった兵士を蘇生させたが、彼が生涯向き合うことになる苦悩を思うと、複雑な気持ちにさえなった。それでも命を救う使命を果たす」と語る隊長。(2025年4月・ドネツク州前線・撮影・玉本英子)
安定化拠点の壁には、「キーウの幽霊」のポスターが。こんな前線地帯で目にするとは。「キーウの幽霊」は日本の松田重工氏の漫画作品で、ウクライナ語にも翻訳、出版された。(2025年4月・ドネツク州前線・撮影・玉本英子)
第5独立強襲旅団は、これまでバフムト、チャシウ・ヤルなどで激戦を戦ってきた。現在はドネツク州クラマトルスクからコスチャンティニウカ(コンスタンチノフカ)の前線地帯に展開。地図は2026年1月上旬時点の状況。(地図作成・アジアプレス)

ウクライナから遠い地にいる者には、テレビ画面越しに見る戦闘の様子が戦争映画のワンシーンのように映るかもしれない。だが、そこには毎日、失われていく命がある。

たとえ一命を取りとめても、生涯、抱えていかなければならない傷を負う兵士や市民がいて、その家族のいくつもの苦悩がある。

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