◆ジャマー突破する有線式ドローン

彼は、光ケーブルをひっぱってごらん、と私に言った。釣り糸ほどのケーブルを両手で思いっきり引きちぎろうとしたが、まったく切れない。「でもこうすると簡単に切れるんだ」と、ケーブルを小さな輪にして指先でつまんできゅっと軽く挟んだ。すると、ケーブルはプツンと折れて、切れた。引っ張る力にはかなり強いが、一カ所に力を加えて折る力には弱いのが光ファイバーケーブルの特性という。

光ファイバーケーブルは、左右に引っ張っても切れないが、指で小さく輪を作って、つまんで挟むとポキンと折れる。(2025年6月・ドネツク州前線・撮影・アジアプレス)
ウクライナ軍のケーブルタンク。光ケーブルは、中国、アメリカのほか日本のメーカーのものも入手しているという。他方、ロシア軍は中国がおもな調達先だろうということだった。(2025年6月・ドネツク州前線・撮影・玉本英子)
広く使われているカメラを搭載したFPVドローン。FPVとは、機体に搭載したカメラの映像をリアルタイムで専用ゴーグルに転送し、一人称視点で操縦できる機体を指す。(2025年6月・ドネツク州前線・撮影・玉本英子)

小型ドローンが戦場で使われるようになったのは、シリア内戦が始まった10年以上前にさかのぼる。敵陣の偵察目的に加え、上空からの爆弾投下型も存在した。だが、高価な機体を使い捨てにする自爆ドローンの大量実戦投入が本格化するのは、ウクライナ戦争からといえる。

侵攻直後、ウクライナ軍は、空撮機能のある民生用MAVIC型ドローンを各部隊に送り、偵察目的で運用し始めた。当初は、機体が足りず、民間の企業や団体などから寄付される例も少なくなかった。その後、無線操縦式の小型自爆ドローンが、戦闘に投入される。いわゆる「カミカゼ・ドローン」だ。当初、優位を誇っていたのはウクライナ軍だったが、すぐさまロシア軍があとを追って自爆ドローンを投入。国家レベルで総力をあげて多様なタイプの機体を開発し、ウクライナ側は苦戦を強いられるようになった。

ウクライナ軍軽装甲車ノヴァトール。ドローン対策で全体を金網ケージで覆っている。兵士たちは、網焼きに見立てて「グリル網」と呼ぶ。(2025年6月・ドネツク州前線・撮影・玉本英子)
前線地帯の軍用車両の多くが、無線妨害装置(ジャマー)をルーフに取り付けている。出力によるが、50~100メートルまで無線ドローンが接近すると効果があるというが、100パーセントではない。(2025年6月・ドネツク州前線・撮影・玉本英子)

戦場に双方のドローンが飛び交い、車両被害や死傷する兵士が急増した。無線信号を遮断するために妨害装置(ジャマー)の導入が進み、車両のルーフや荷台には、ジャマーのアンテナが取り付けられた。ところが、ロシア軍は2024年春頃、無線を使わず、光ファイバーケーブル経由で信号を送ってコントロールする有線式を開発、夏にはクルスクでの戦いに投入する。

周波数帯によって、ジャマー・アンテナのサイズが違う。小さいアンテナは高い周波数、大きいものは低い周波数に対応したもの。周波数帯ごとにアンテナが必要という。ロシア軍の無線ドローンは、ジャマーを感知したら飛行中に周波数をホイップして変えてくるという。無線信号を使わない有線式にはジャマーはまったく効かない。(2025年6月・ドネツク州前線・撮影・玉本英子)

◆「無線式ドローンで戦場が変わり、有線式がさらにひっくり返した」

ウクライナ軍・ロシア軍とも、電子戦はレッブ(РЕБ)と呼ぶ。通信傍受、発信電波からの敵の位置特定、電波攪乱、妨害電波発信、自軍の通信防護などだ。ウクライナ兵たちは、車両のルーフに取り付けたジャマー装置もレッブと呼ぶ。各部隊にはジャマー装置の配布が進みつつあったが、有線式はジャマー自体を無意味化してしまった。

ロシア軍の有線式ドローンが、走行中のウクライナ軍車両を狙う映像。ルーフにジャマーがあるが効果なく、車体めがけて突っ込んでいっている。(2026年2月・ロシア国防省映像)

 

【動画】ウクライナ軍のバギー車両が、後方から突っ込んできたKVNドローンをギリギリのところでかわしている。(2025年・ウクライナ軍・第4レンジャー特殊作戦連隊映像)

 

有線式を見たときは驚愕した、とリース操縦士は振り返る。

「無線電波を使わないから、ジャマーが効かず、阻止できない。これまでの防御システムをゼロから見直さなければならなくなった。無線式自爆ドローンで戦場が変わり、有線式の登場が、さらにひっくり返した」

ウクライナ軍も開発を急ぎ、ほぼ1年遅れて現場運用が始まった。機体下部に2リットルのペットボトルより一回り大きい黒いケーブルタンクを装着する。内部は、リール状に巻いた細い透明の光ファイバーケーブルが入っていて、タンク後部から蜘蛛が糸を出すようにケーブルを垂らして飛行する。ケーブルを通して操縦信号と搭載カメラの映像を伝送し、オペレーターが手元のモニター画面を見ながら操縦する。無線、有線のそれぞれの方式に特性があるため、すべてが有線に置き換わるわけではないが、防御対策は根本から防御対策は変更を迫られることになった。

ロシア軍が有線ドローンを使う映像。壁にKVN機がつるされている。机の下には大量のバッテリーが積まれている。(2026年2月・ロシア国防省映像)

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