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080727_APN_iran【カスピ海沿岸は水田地帯】(アンザリ近郊で/撮影:大村一朗)

カスピ海沿岸の旅 (1) (08/07/25)
私はイランの某国営企業で契約社員として働いており、つい最近、そこの慰安旅行に参加した。
国営企業はおしなべて福利厚生が行き届いているものだが、この慰安旅行も交通費、宿泊費ともに通常の10分の1程度の負担で済み、4泊5日の請求額が500円程度と破格の値段で旅行ができるため、職員には大変評判が良い。そのため誰もが参加を希望するが、テヘランだけで3万人以上いる職員すべてが参加できるはずもなく、抽選となる。今回は運よくそれに当たった。

大型デラックスバス14台を連ねて、早朝、テヘランを発つ。車内に見知った顔はいないが、同じ会社のよしみですぐに周りと打ち解ける。食べ物を勧めあったり、子供同士を遊ばせあったりしながら、なごやかにバスは進む。家族連れが多いにもかかわらず、車内映画が殴る蹴るのバイオレンス映画であることだけが玉に瑕である。

バスは殺風景な漠土の中をしばらく西へと進み、アルボルズ山脈の険しい山道を北へ越えると、あたりに緑が見え始める。その多くはオリーブの林で、ときおり通過する町の沿道では、地元産のオリーブの漬物やオリーブオイルなどの瓶詰めを売る土産物屋が軒を連ねている。

山越えの道を抜ける頃には、周囲に広々とした水田地帯が広がり、いつしか砂色の山並みは後方へ消え去り、樹木に覆われた緑の山々が広がっている。空気が湿り気を帯び、カスピ海沿岸地帯にたどり着いたことを教えてくれる。

カスピ海沿岸は亜熱帯気候に属する。内陸の乾燥地帯テヘランから訪れると、その圧倒的な緑の量に目がくらむほどだ。海べりにはヴィラと呼ばれる別荘地が至るところに見られ、週末になるとテヘランからの観光客で賑わう。テヘランでは、カスピ海沿岸のことを単に「ショマール(北)」と呼び、それは軽井沢のように、保養地、避暑地の代名詞となっている。イランというと砂漠を連想する日本人は多いが、ショマールは水田と茶畑と手付かずの森林が広がる、イランのもう一つの顔である。

7時間バスに揺られて、ようやく目的地の保養施設に到着した。3棟の大きなホテルを擁する広大な敷地内には、大小のレストランやファーストフード店、ミニ遊園地、サッカー場、ミニ商店街と、家族連れが楽しめる施設が一通り揃い、そして、専用のビーチがある。
チェックインを終え、部屋に荷物を置くと、さっそく海を見にビーチへ向かった。ところが、ビーチは今、男性の遊泳時間で、女性は入れないという。聞けば、午前9時から正午までは女性専用、正午から午後6時までは男性専用なのだという。身体の露出を厳に慎むイスラム体制では、ビーチやプールは銭湯と同じ範疇に入るのである。せっかくの家族旅行なのに、家族で海水浴は楽しめないようだ…。 (つづく)

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