パレスチナへの支持と反米、反イスラエルを世界に呼びかけるため、パレードや催しが行われるイランの国民的記念日「世界ゴッツの日」。大統領選挙後に騒乱が起きた2009年は改革派がカウンターデモを行い、緊迫した空気が流れた。写真は、バスターミナルを占拠して気勢を上げる改革派(撮影筆者)

パレスチナへの支持と反米、反イスラエルを世界に呼びかけるため、パレードや催しが行われるイランの国民的記念日「世界ゴッツの日」。大統領選挙後に騒乱が起きた2009年は改革派がカウンターデモを行い、緊迫した空気が流れた。写真は、バスターミナルを占拠して気勢を上げる改革派(撮影筆者)

 

◆世界ゴッツの日(下)~改革派、健在

バスが市街中心部のエンゲラーブ広場のすぐ手前まで近づいたとき、前方に道路を横切ってゆく一団が見えた。緑のテープが巻かれた手首や指を空に掲げて行進してゆく彼らは、久しぶりに目にする改革派だった。

ずいぶん堂々とやっていることに驚いた。嬉しくなって乗っていたバスを飛び降り、カメラを取り出そうとしたそのとき、歩道脇にずらりと並ぶデモ鎮圧部隊のカーキ色の軍服が目に入った。戦国武将の甲冑を思わせる装甲服は、街中で軍服姿の珍しくないテヘランでも、市民に軽い恐怖を与えるのに十分な異容だ。見れば、エンゲラーブ広場に向かって、歩道には、鎮圧部隊、機動隊、警察、バスィージ(体制派民兵組織)、徴兵の若者と、これでもかというくらい警備の人員が配置されている。こんなゴッツの日(※)は見たことがない。

その中を、緑の布や鉢巻、リストバンドなどを身に付けた、若者を中心とする一団150名ほどが広場に向かって進んでゆく。彼らが歩けるのは幅4メートルほどの歩道だけだ。今日のために歩行者に解放された車道の中央は、官製デモの行進が進んでゆく。

彼ら正規のデモ隊は、例年のごとく「アメリカに死を」、「イスラエルに死を」といったお決まりのスローガンを叫ぶだけでなく、「偽善者に死を」、「ヴェラーヤテ・ファギーフ(法学者による統治)の反対者に死を」といった、改革派を非難し、現体制を支持するスローガンを叫んでおり、彼らの持つプラカードも、この日の本来の目的であるパレスチナ支持を打ち出すもの以上に、現体制と最高指導者ハーメネイー師を支持する内容のものが多く目立つ。それらは明らかに今国内にある混乱を踏まえたものだ。

エンゲラーブ広場まであと100メートルというところまで来て、緑の一団は警官隊に行く手を阻まれた。彼らには、広場と、そのすぐ先にあるテヘラン大学での金曜礼拝に立ち入ることは許されていないようだ。

その背後からは、次々と正規の行進が到着する。彼らが改革派の一団と接触すると、スローガンによる激しいなじり合いになった。中学生ぐらいだろうか、正規のデモ隊の、チャドールを着たまだ幼さの残る女の子が、「偽善者に死を!」と叫んでいる。叫ばされているのではない。目を剥き、自ら身を乗り出し、掴みかからんばかりの形相でそう叫んでいるのだ。それを目の当たりにしてたじろいだのは、私だけではないだろう。彼女らは所詮、官製デモではないのか?市の用意した動員バスに乗せられて、テヘラン近郊の村から年中行事の一つとして、遠足気分でやってきた人たちではないのか?この激しい憎悪は一体どこから来るのか。

一触即発の状態になりながら、多勢に無勢で改革派がじりじりと後退させられてゆく。仕方なく彼らはエンゲラーブ広場への到達を諦め、元来た道を反対方向に向かって行進せざるを得なくなる。そんなことが広場付近で何度か繰り返されたが、道路わきに待機している警官隊の表情に緊張感はなく、ときおり騒ぎに割って入る警官たちも、極めて紳士的だった。一目で外国人と分かる私を見咎める警官もいない。

恐らくは今日、このエンゲラーブ広場周辺では、改革派のデモを強制排除するという予定は組まれていないのだろう。外国のメディアが多数入っていることが一番の理由だろう。実際には、外国メディアの目は直接ここまで届いていないが、催涙弾が放たれればデモ隊はゴミ箱を燃やすだろうし、遠くテヘラン大学の方で陣取っている外国人記者にも、ここで何かが起こっていると知れるはずだ。改革派市民が恐れることなくこのデモ行進に参加してきたのも、同じ理由に違いない。小さな子供に緑のリストバンドを巻いた親子連れが何組かいたのには驚いたが、それだけ海外のメディアが入っていることは、彼らを勇気付け、安心させるものなのだ。
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