「ずっと天井からすごい声が聞こえてて、心配で見に来たんです。大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。ちょっと子供が怖がってるだけですから」
「でもね、今までこんなことなかったし」
「家族の問題ですから、どうか気になさらないでください」

そのときだった。突然母親の背後から姑がものすごい険相で現れ、乱暴にドアを閉めてしまった。一同はあっけに取られながらも、次の瞬間、事の次第を飲み込んだのだった。孫を折檻していたのは姑であり、嫁は恐らく、なすすべもなくそれを見守っていたのだろう。

密室に母子二人きりではないことが分かると、私たちは最悪の事態が起らないことを悟り、解散した。その晩はもう、子供の泣き声も姑の叫び声も聞こえてくることはなかった。
この一家が隣に越してきたのは2ヶ月ほど前のことだ。夫はイラン中部ヤズド出身の社交的な銀行マンで、お近づきの印にとヤズドのお菓子を持ってきてくれた。

奥さんも穏やかそうな人で、娘のヤサミーちゃんも一度我が家に遊びに来たことがあった。しかし、姑の存在はノーマークだった。
相方によると、この姑はもともと一癖ある人だったという。相方が部屋を出入りするたびに、玄関のドアを開けてじろりと確認し、何も言わずドアを閉めるのだという。私はこの二ヶ月、姑を見かけた記憶すらない。「家にこもりきりで、暇で暇で仕方ないのよ」と相方は言う。

おばさんたちの社交場である近所の公園や青果市場も、知り合いがいてこそ社交場と言える。転居してきて間もないこの姑がつい家にこもりきりになるのも理解できる。長じてそのストレスが家族に向かうことも。24時間顔を合わせている嫁の気苦労は計り知れないが、老いて住まいを変えるのは、若い者が思う以上に酷なことなのかもしれない。