イラン温泉紀行1

【ぶどうは今が旬】

テヘランつぶやき日記
大村一朗のテヘランつぶやき日記
~イラン温泉紀行(1)  2009/10/14

久しぶりに2連休が取れた。1泊2日ではたいした遠出はできないが、どこか面白そうな場所はないかと、イラン交通地図帳をぱらぱらとめくっていると、テヘランの西部、バスで3時間ほどのところに、その名も「アーベ・ギャルム(温泉)」という町があるのを見つけた。

近いので、午後にゆっくりと家を出、テヘラン西バスターミナルから長距離バスに乗り込んだ。
一人でテヘランから外へ出るなんて本当に久しぶりだ。妻と子供が日本に一時帰国していなければ、今回も家族旅行になっていただろう。

家族で行動するとき、僕はつまらぬトラブルから家族を守るため、かなり気を張って行動していた。しかし、こうして一人で地方行きにバスに乗り込んでみると、いつもよりもずっと緊張している自分に気がつく。

思えば、子供連れで行動していて、値段をふっかけられたり、ちんぴらにからまれたり、不親切な振る舞いをされたことは一度もなかった。むしろ、子供の存在は、相手の警戒心を緩め、基本的にただでさえ親切なイラン人を、もっと親切にすることはあっても、よこしまな気持ちをいだかせることはないのである。

一度だけバイクのひったくりに遭ったことはあるが、あれは最初から相手が犯罪者なので話は別だ。
そんなことを考えながらバスに揺られ、一眠りして目を覚ますと、そこには一面、ぶどう農園が広がっていた。

夏から秋にかけて、ぶどうは収穫期を迎える。路肩には農家が掘っ立て小屋を建て、ぶどうのケースを積み上げ、ドライバー相手に売っている。市内の八百屋なら1キロ200円ほどのぶどうも、この辺で買えば、4分の1ほどの値段で買えるのだろう。こうした郊外で大量にぶどうを買い、自宅で自家製ワインを醸造する人も少なくないという。もともと良質のぶどうが取れるイランは、おいしいワインの産地でもあったという。今は昔の話である。

目的地アーベギャルムに着く頃には、すっかり日も落ち、気温はぐっと落ち込んでいた。
そこは、食事やお茶のために一休みする長距離輸送のトラックで賑わう、街道沿いの小さな町だった。温泉はどこかと訪ねると、街道から少し奥まったところに、一軒の大きなハマム・公衆浴場が建っていた。

硫黄の匂いが漂う中、周囲にはタオルや水着を売る商店が何件か並び、そうした商店が店の二階の空き部屋を、1泊4~500円で貸していた。ほかに旅館もホテルもないという。

空き部屋の一つを見せてもらうと、何もないガランとした部屋に、粗末なカーペットが敷かれ、一度も洗ったことのないような毛布が何枚が片隅に積んである。温泉町のこうした宿には、客は普通、絨毯も寝具も自前で持ってくるものなのだ。とはいえ、一人身では体裁や清潔さなどどうでもいい。
目的は湯につかることだ。一部屋取ると、タオル片手に目の前のハマムに向かった。
(つづく)