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【バラはイランの国花。ペルシャ詩人たちに愛され、詩のモチーフにもされてきた。バラ水の歴史は西暦10世紀ほどまでさかのぼると言われる】

テヘランつぶやき日記
大村一朗のテヘランつぶやき日記  バラを見に行く 2010/05/18
日本の桜がすっかり散ってしまった5月の半ば頃から、イランでは色とりどりのバラが咲き乱れる。
そのバラの中でも、ゴレ・モハンマディー(学名ロサ・ダマスケナ)というバラは、その香りの良さからバラ水が抽出され、ジャム、アイスクリーム、ジュース、ケーキなど様々な用途に用いられる。イラン人にとっては、最も身近で愛すべきバラと言っていい。バラ水を取るためのバラの摘み取りは、少し遅い春の風物詩でもある。

バラ水はイランで最初に生まれ、現在も最大の生産国として世界各地に輸出されている。その一大生産地は、イラン中部イスファハーン州のカーシャーン市近郊の村々で、その中のガムサル村を一泊二日で訪ねることにした。
テヘランから長距離バスでカーシャーンまでおよそ4時間。カーシャーンから乗り合いタクシーで30分ほど走ると、砂漠の黄土色の山間に、緑に包まれた丘陵地が見えてくる。

ガムサル村は人口3000人ほど。イランの他の村々と同様、桃源郷のように美しい。細く入り組んだ坂道を、荒壁土の土塀に沿って登ってゆくと、いたるところに「バラ水製造所」の看板を掲げた民家を見かける。多くの民家は家内工業でバラの摘み取りとバラ水抽出を行なっており、民家の庭には、水蒸気蒸留のための大釜が二つ三つと置かれている。そうした民家の中には観光客用に部屋を貸しているところも多い。今はバラの摘み取りの最盛期で観光客も多いためか、結構な部屋代をふっかけてくるところが多い。

バラの摘み取りは、早朝、まだ日が昇る前に行なわれる。東の空が明るくなり始めた朝5時半、宿を出て、バラ園までとぼとぼと歩く。バラ園といっても、それは藪と呼んだ方がふさわしい。枝を大きく広げた丈1~2メートルほどの野性味あふれるバラ園が、村のあちこちに鬱蒼と広がっていた。

辺りが明るくなるにつれ、小さなピンク色のつぼみが花を開かせ、甘い香りが漂い始める。農家の人たちがバラを積む姿があちこちに見られる。朝日を浴びて香りが消えてしまう前のこの時間帯にバラを摘み取らなくてはならないのだ。
大量のバラの花を袋いっぱいに収穫し、抽出用の釜に投入。水とともに4時間煮立たせ、蒸気を細い管で冷却用のタンクに取り込み、バラ水が生まれる。

バラ水はイランのどこででも手に入るが、出来立てのバラ水の味は格別だ。この村では他に、バラジャムやバラの石鹸、また、バラの季節以外にも様々な花やハーブの抽出液を生産している。メッカのカーバ神殿を年に2回洗浄するためのバラ水も、この村のものだ。

製造所は大抵、直売も行なっており、3リットルほどのバラ水とバラジャム、そして紅茶に一滴垂らすとおいしいカルダモンの抽出液を購入し、ガムサル村をあとにする。バラ水1リットルは日本円で500円もしない。
夏場、つめたく冷やしたバラ水をティーカップ一杯、風呂上りに飲み干すのが好きだ。甘い香りとさっぱりとした苦味が、一瞬で身体を冷ましてくれる。そのわずか一杯の量が、日本では高級化粧水として4000円ほどで売られているという。最近何かと物価高を感じるイランだが、バラ水はまだ割安感と贅沢を十分感じられる品の一つだ。