◆貞節をめぐる陰謀論

宗教色の強い視聴者からは厳しいコメントも書き込まれている。なかでも作中に登場する女性たちの装い、とりわけ主人公アルスラーンに仕えるミスラ教の女神官ファランギースの露出度の高すぎる服装についての批判だ。

「日本人は確かにイランの文明を題材にしたストーリーを作ったが、この仕事の背後には必ずある思惑があり、それはここで描かれている女性の服装を一 目見れば明らかだ。たしかに当時のイランの女性たちは頭に被り物をしていなかったが、身体をしっかりと覆う服を着ていた。他者がイランの歴史を我々の前で 再現する前に、我々自身で自分達の善き歴史を学ぼうではないか」

「ファランギースはヘジャーブを被っていないが貞節は備えているなどという見解は馬鹿げている。女性の貞節とヘジャーブは直結しており、慎み深くあ ればあるほど、身を覆う度合いも増してくるものだ。この問題は明らかにイランの女の子たちをだまそうという意図があるが、彼女たちはずっと賢明であり、敵 は見誤っている」

だが、こうした批判的意見には、すぐさま反論コメントが寄せられる。その応酬は、イランのあらゆる分野で常にくすぶっている、この国特有の政治的、思想的、宗教的確執を再現するものだ。

「このほんとにイスラム的な人たちは一体何がしたいの?この国はひとつのアニメーションでさえ自分たちに毒を食らわせるものだと思いたがる。一部の コメントを見ると気分が悪くなるわ。こんな仮想空間でさえ、気楽に過ごすことができない。こんなところでコメント残してる暇があるなら、自分たちの専門分 野でちゃんと仕事をしなさいよ」

「イランの古代の女性たちはこんな服装はしていないと言っている人たちは間違っている。古代イランの壁画の一部には、裸体の女性すら見られるという のに。ペルセポリスの遺跡には確かに完璧なヘジャーブ姿の女性が描かれているが、あれはリュディアからの使者であり、王に新年の祝辞を述べるために、自分 の地域の服装で訪れたのだ」

「いつも悪い印象ばかりを広めようとする人がいる。仮想の敵を生み出すことは国や世論に最悪の損害を加えるものだ。その文化が世界に知られる、日本 のような善良な国を、何か企みがあるなどと批判するのは間違えている。ほとんどのアニメーションは制作者の意図のみを反映し、その裏に黒幕がいるなんてこ とはない。残念なことに私たちの国の一部の人たちは、他の国が私たちの国とは反対に、新聞やアニメや映画において思想や言論の表明が自由であるなどとは考 えたくないようだ」

「女性の服装を槍玉にあげても、今どきのアニメはどれもそんなもの。背後にシオニストも黒幕もいないよ。なぜイラン人はそんなに他者を疑ってかかる のだろう。特に日本についてはまったく見当違いだ。日本人研究者によって書かれた、イランの文化を称賛するイラン学の書籍の数は本当にたくさんあるという のに」

「このアニメは我々の歴史にとても関連があるし、単語や用語もよく考えられている。シャーナーメ(イラン創生の民族叙事詩)の中の、ロスタムとア シュキャブースの物語、ファランギースの物語、スィアーヴァシュとザッハークの物語を読めば、このアニメのことをもっと理解できるし、イランの歴史・文化 と無縁だなんて言えなくなるよ」

日本人にとっては古代ペルシャへと誘う異国情緒にあふれた娯楽作品だが、イランでは個々の宗教観、歴史観をめぐり、若者たちの議論を呼び起こしてい るのは興味深い。日本では第1期の地上波テレビ放送が先月終了したが、イランでは早くも「第2期はあるんだろうな!」とのコメントが並び、続編への期待が 高まっている。

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