今回のアフマディネジャード大統領の演説は、行なわれる前から西側諸国に警戒されていた。なぜなら、大統領クラスでこの会議に参加するのはアフマディネジャード大統領ただ一人であり、そのため彼が国連事務総長に続き、1番目に演説することから、イスラエル批判の過激な持論を展開するためにこの場を利用するつもりではないかと警戒されていたのだ。そのため、西側諸国の代表団の間では、アフマディネジャードがイスラエルを名指しで非難し始めたら一斉に退席すると、あらかじめ申し合わせていたと言われている。

この会議をボイコット、あるいは退席した西側諸国は、アフマディネジャード大統領の演説が反ユダヤ主義を助長するものだと非難している。しかし、国を持たないユダヤ人を差別し、収容所へ送り込んだ反ユダヤ主義は、もともとヨーロッパのものであり、パレスチナでの虐殺を非難する発言は反ユダヤ主義とは関係がない。

実際、アフマディネジャードが憎んでいるのはシオニズムであり、イラン国民からは、欧米に根強く存在するようなユダヤ人に対する憎悪はまったく感じられない。イランの国営メディアの報道でも、シオニストとユダヤ人ははっきりと区別されている。

バン事務総長は、この会議の建設的な方向性が損なわれたとして、アフマディネジャード大統領の演説を非難した。ボイコット組と退席組を合わせれば、ヨーロッパの国は会議場にほとんど残っていなかったと思われる。その様子からは、イランのメディアが伝えるほどには、欧米諸国のイスラエルに対する姿勢は変わっていないことが伺える。

だが一方で、「誇り高くありましょう」と聴衆に呼びかけて壇上から降りたアフマディネジャード大統領に拍手喝采を送ったのは、参加国192カ国の大多数の国の代表団だった。その光景からは、世界のパワーバランスに変化が生じつつあるのが確かに感じられたのも事実である。

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