ysd_img462.jpg『合衆国軍隊構成員等に対する刑事裁判権関係実務資料』の、「関係条約及び法律」の目次。国会図書館で部分的閲覧ができる複製では、法務省による黒塗り処理で、「日米合同委員会刑事裁判権管轄分科委員会において合意された事項」が消されている。
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国家が情報を隠蔽するとき

20 秘密にされている日米の「合意事項」
この「合意事項」は、1953(昭和28)年9月29日に日米両政府間で結ばれた「行政協定第17条を改定する議定書」と「議定書に関する合意された議事録」に伴うもので、行政協定第17条の実施のため、細かな手続や定義や解釈を定めている。

「合意事項」は全部で52項あり、その内容は多岐にわたる。
31. (日米地位協定の実施に伴う)刑事特別法の解釈
32. (合衆国の)機密符号の告知
33. 刑罰法令の通知
34. (合衆国軍隊構成員等の)猟銃所持の許可
35. (合衆国軍隊構成員等の)運転免許証への記入
36. 判決による差押等
37. (日米両国の)安全に対する罪に関する法令等の通報
38. (合衆国軍隊)「指揮官」の解釈についての特例
39. (合衆国軍隊構成員と軍属の)公務の定義
40. 犯罪の通知及び起訴(裁判権行使)に関する通告等
41. 軍事裁判所の審理の場所に関する特例
42. 合衆国軍隊の構成員等の保釈
43. (合衆国軍隊構成員と軍属の)公務に関する証明書の取扱
44. (合衆国軍隊構成員等で)数罪(数個の異なった犯罪)を犯した者の審理
45. 審理への立会
46. (裁判など)処分結果の通告
47. (合衆国軍隊構成員の)急使等に関する特例
48. 合衆国の軍法に服する者の範囲
49. (合衆国軍隊構成員等で)数罪を犯した者の起訴(裁判権行使)に関する通告等
50. (刑事手続を経ない罰金などの納付ができる法律違反の)通告処分手続のある犯則事件の通知及び起訴に関する通告等
51. 合衆国軍隊構成員の仮釈放
52. (道路交通法違反の)交通反則通告制度の新設に伴う米軍関係反則者に適用する起訴準備期間
第1項~第36項が1953年10月22日、第37項~第43項が同年10月28日、第44項~第49項が同年11月27日、第50項が1954年4月6日に、日米合同委員会刑事裁判権分科委員会(現刑事裁判管轄権分科委員会)で合意された。
合意文書には、当時の刑事裁判権分科委員会日本側委員長の津田實(法務省刑事局)と合衆国側委員長のアラン・トッド(極東陸軍司令部幕僚部法務部陸軍中佐)の署名がなされている。
1953年10月28日といえば、同年9月29日の行政協定第17条改定に伴い、「(日本の当局は通常、)日本にとっていちじるしく重要と考えられる事件以外については、第1次裁判権を行使するつもりがない」として、米兵犯罪裁判権を事実上放棄する日米密約が結ばれたのと同じ日である。
その密約文書に署名したのも、同じく刑事裁判権分科委員会日本側委員長の津田實だった。むろん、この密約も、「合意事項」も津田やトッドら実務担当者の一存で決めたわけではなく、日米両政府中枢の考えに基づいている。
そして、第51項~第52項は1968年6月までに順次、追加で合意された。1960年に日米行政協定が日米地位協定に切り替わるとともに、「合意事項」もそのまま地位協定第17条に関する実施細目として引き継がれ、現在も効力を保っている。
米兵犯罪裁判権を事実上放棄する日米密約と同じ時期に合意された、これらの「合意事項」も、密約の一環といえる。なぜなら、法務省・外務省つまり日本政府は「合意事項」の要旨だけは、「刑事裁判管轄権に関する事項」として外務省のホームページなどで公表しているが、その全文はいまだに公表せず、秘密にしているのである。
なお、「行政協定第17条を改定する議定書」と「議定書に関する合意された議事録」は全文が公表されている。
現在、法務省による黒塗り処理をされて国会図書館で部分的閲覧のできる『実務資料』でも、本来「合意事項」全文が載っている 126ページから 149ページまでが全面黒塗りされたうえで、製本された複製から取り除かれている。
さらに『実務資料』複製で部分的閲覧のできるページでも、解説や通達などの文中に「合意事項」関連の記述や「合意事項第○○項」という言葉があるところは、一つひとつ細かく全て黒塗りにされている。
「合意事項」に関して、徹底して秘密にしておきたいという意図が明らかである。
つづく(文中敬称略)
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