ysd_img507.jpg神奈川県にある米陸軍キャンプ座間基地の正門。在日米軍基地・演習場(施設・区域)は現在、全国に85ヵ所ある。

国家が情報を隠蔽するとき

33 米軍側の強い要求と日本側の一方的な譲歩
この日米合同委員会刑事裁判権分科委員会の会議公式議事録には、さらにまた驚くべき記述も出てくる。
「(米)公務に関する当委員会の提案のうちで使用されている『飲酒』という用語は、公の催事以外の場所で飲酒することを指すものと当方は解釈する。しかしながら、この公務の考え方は、勤務の場所と、認められた宿舎又は住居との間の、直接の往復の途中において発生した事故に関してのみである。

例えば、もし、合衆国軍隊の構成員又は軍属が、正規の勤務日における勤務中に飲酒したとしても、単に飲酒したということだけでは必ずしも公務の性格を失うものではない。しかし、もし、合衆国軍隊の構成員又は軍属が、公の催事以外で飲酒した後、その勤務の場所からその宿舎又は住居に帰る途中で交通事故を起こした場合において、その飲酒が、自動車を運転する場合における判断力を、感じられる程度にそこなわしめるに足りるものであるときは、その公務の性格は失われる。日本側もこのように了解するか」(『実務資料』p.205 ~ 206)
つまり、米軍人や軍属が勤務中に飲酒しても、単にそれだけでは「公務の性格を失うものではない」という(奇妙な?)前提を持ち出したうえで、こう結論づけるのである。

「公の催事以外で飲酒した」後、勤務場所から宿舎や住居に帰る途中で交通事故を起こした場合、その飲酒の度合が、「自動車を運転する場合における判断力を、感じられる程度にそこなわしめるに足りるもの」、要するに酔っていて判断力が鈍り、事故の原因になったと見なせるほどであれば公務中ではなくなるが、そこまで酔っていたと見なせなければ公務中に当たる、というのである。
これはまた、あまりにも米軍側の身勝手な解釈で、ごり押しだとしか思えない。ところが、日本側の返答はどうだったであろうか。
「(日)然り」(『実務資料』p.206 )

ysd_img503.jpg『実務資料』に載っている、米軍人・軍属の「飲酒と交通事故と公務」に関する日米間の質疑応答。[上の画像をクリックすると拡大します]

米軍側の主張をあっさりと受け入れて、了解してしまっている。何か反論したとか、疑問を呈したとか、それらしきことは会議録にはまったく記されていない。
また、米軍側は通勤途中の「寄り道」も公務中に含めるかどうかと質問し、日本側が「寄り道」した場合は公務中と認めたくないと答えても、軍の「慣習及び慣行」が考慮されるべきだと強く主張した。
その結果、日本側は「いかなる寄り道も認めたくない」が、「個々のケースごとに考究することに同意する」と、最終的に譲歩している。
このように公務の範囲を米軍側有利に拡大解釈する、不平等な秘密合意により、被害者や遺族の知らないところで、本当は日本側で裁くべきだった権利が失われていたのである。加害者の米兵や軍属は結果的に、米軍内で軽い処分で済まされてきたのが実態だ。
つづく(文中敬称略)
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