また胸膜肥厚斑(胸膜プラーク)もアスベスト曝露が原因で発生するが、それ自身では肺機能被害をともなわないとされており、現状では「疾患」に分類されていない。そのため現状では「健康被害」と扱われておらず、労災補償制度や石綿健康被害救済法では補償・救済の対象外とされている。

しかし、胸膜プラークの所見がある人は、それがない人に比べてアスベストの曝露量も多く、中皮腫のリスクが高くなると推測されており、フランスなどいくつかのヨーロッパの国々では補償対象となっている。石綿健康被害救済法改正のパブリックコメントでは胸膜プラークがある場合は救済対象とすべきとの意見も寄せられており、論争が続いている。

アスベスト疾患を発症した人に対する補償・救済制度については、現状では欧米に比べて給付金額が低いことや、アスベスト由来の肺がんについて救済法では労災の認定制度よりも給付決定を厳しくしているなどさまざまな問題があり、批判を浴びている。

アスベスト被害者やその家族で構成する「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」や、NPO「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」(所長・名取雄司医師、以下アスベストセンター)などは一貫して、「すべての被害者に隙間なく公正な労災補償並みの補償を」と訴えてきた。そして、その補償は「(加害者である)アスベスト関連企業および国の責任によって実現されるべき」と主張している。

だが、それはいまも実現していない。なお、アスベスト関連疾患や救済法の概要などは、アスベストセンターの「石綿(アスベスト)Q&A」や環境再生保全機構のホームページなどを参考にしてほしい。

アスベストセンター「石綿(アスベスト)Q&A」
環境再生保全機構「アスベスト(石綿)関連疾患」
アスベスト被害は、曝露から病気の発症まで平均40年前後の潜伏期間があるため、曝露から20~30年はとくに何の症状も出ないことが多い。前回述べたように、すでに中皮腫の死亡者だけでも2006年に年間1000人を超え、2011年には1258人に達した。こうした被害者は、潜伏期間を考慮すると、数十年前のアスベスト曝露による死者ということになる。つまり過去のアスベスト曝露による被害者なのだ。いまアスベストに曝露したとしても、被害が発生するのは20~40年後。よってアスベスト被害は「未来の世代」に対する被害と言い換えることもできるかもしれない。

曝露から被害発生までの長すぎる時間差がアスベスト被害の顕在化を妨げてきた。その特異性はまた、アスベスト対策を遅らせたり、ずさんにして、よりアスベスト被害を増やして長期化させる。アスベストが「静かな時限爆弾」と称されるゆえんである。
3つの問題のうち、残る(2)と(3)については次回報告する。
(つづく)

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