◆「負圧除じん機」の漏えいが一因

「実際に現場に入ったわけではないので断言まではできませんが、おそらく複数のミスがありますね」

匿名で取材に応じてくれた2人のコンサルタントの両名とも、ひと通り筆者から事故状況を聞くと、事故原因が1つではないとの見解を示す。

ここでアスベスト除去工事について簡単に説明しよう。

耐火材などとして天井や梁、柱に吹き付けたアスベストを対策なしにそのまま除去してしまうと、周辺にアスベストが飛散してしまう。そのため、現場をビニールシートで覆い、粘着テープで隙間をふさいで密閉養生し、ほかの場所から隔離することが必要になる。

密封養生された除去現場内で、天井などのアスベストを金属のへらを使ってかき落とすのだが、当然大量のアスベスト粉じんが舞う。これが外部に漏えい しないよう、除去現場内の空気をファンで引き込んで減圧する。同時に、原発施設などで放射性物質の除去にも使用される高性能フィルター、ヘパフィルターな どでアスベストを除去して、養生外へはきれいな空気だけ排出する。

この2つの機能を担うのが負圧除じん装置だ。簡単にいってしまえば、大きな掃除機のようなもので、これで空気を引き込むとともに、アスベストも吸引する。吸い込んだアスベストは高性能フィルターで取り除くわけだ。

密閉養生内への出入りには、アスベストを落とすエアシャワーのほか、防護服など装備を整える更衣室などが配置された前室(セキュリティゾーン)を通じて行う。ここで作業時に防護服や身体に付着したアスベストを洗い落とし、外に出るときに汚染を持ち出さないようにする。

名古屋市・六番町駅の除去工事でもこのような対策は講じられていた。にもかかわらず、漏えい事故は起こった。

その原因の1つとして、2人のコンサルタントは負圧除じん装置の不具合を指摘する。

「そこまで高濃度の漏えいとなると、負圧除じん装置が一番怪しい。負圧をきちんと管理していたか。ちゃんと管理していてずっと(除去現場内が)マイナス圧であれば、負圧除じん装置の不具合しか考えられない」

「アスベストが高濃度に検出された機械室前は負圧除じん装置の排気口のすぐ近くで、濃度が非常に高いですから、装置の不具合が強く疑われます。ほかの要因でちょっと漏れたというのではないと思います」

クロシドライト(青石綿)が空気1リットルあたり710本と高濃度に検出されたのは駅構内の機械室入口前の通路だ。この入口を入ってすぐのところに負圧除じん装置が設置されていた。

負圧除じん装置の不具合を疑う根拠は、測定されたアスベスト濃度が非常に高かったことや、その測定地点が負圧除じん装置に近かったことだけではない。この装置の管理方法にも、問題があった可能性が高いのだ。
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