◆専門業者でさえ装置の扱い方を知らない!

以前にも紹介したように、施工業者側は「工事は完璧だった」と主張し、養生の破れや負圧除じん機の不具合による漏えいを否定した。

負圧除じん機のフィルターを定期的に交換していたことや、空気中の水分と反応して白煙を発生させるスモークテスター(発煙管)も併用して、装置からの漏れがないかも確認していたというのがその根拠だ。

しかし、その確認は不十分だった。

フィルターを定期的に交換しても、装置の不具合まではわからない。スモークテスターで煙を出して、負圧除じん機に吸わせて目視で漏えいがないかを調べているというのだが、実際にはこの方法ではわからないと2人のコンサルタントは口をそろえる。

「それじゃ漏えいの確認になっていません。スモークテスターで煙をたいても、負圧除じん機に吸い込まれたら(負圧除じん機の機械の)中で散って(空気と混ざって薄まって)しまって、排気口を目視で確認しても煙なんて見えません」

ではどのように確認するのか。彼らによれば、負圧除じん機の作業前の稼働チェックは、次のような手順となる。

まず負圧除じん機を稼働する前にあらかじめ、空気中の粉じん濃度を測定するデジタル粉じん計を使って、その場所の空気中に浮遊している粉じん濃度を 測定しておく。そのうえで、負圧除じん機を稼働させ、排気口にデジタル粉じん計を突っ込んで計測し、負圧除じん機稼働前後の測定値を比較するのである。

負圧除じん機には、直径0.3マイクロメートル(マイクロは100万分の1)の粒子に対して99.97%以上の捕集率を持つ高性能フィルター(ヘパ フィルター)が使用されており、アスベストとほぼ同じ大きさというスモークテスターの煙も捕集できる。そのため、負圧除じん機がきちんと稼働していれば、 ほぼアスベストは検出されない。ところが、装置に何らかの不具合があって漏えいしてしまっている場合、稼働前の空気中の粉じん濃度よりも高い値となる。

この時注意が必要なのは、稼働前の空気中の粉じん濃度が高い場合である。そもそもそこには別の粉じんが多量に舞っていることを意味し、そうした数値 と装置稼働中の測定値を比較してしまうと、漏えいがあってもわからないことになりかねない。この場合、稼働前テストは別の空気がきれいな場所で実施する必 要があるという。

コンサルタントの1人は、負圧除じん機に装着されている1次、2次のプレフィルター(比較的大きい粒子を捕集するフィルター)を取り外し、ヘパフィルターのみが装着された状態にして上記のテストをする。

その際、稼働前の空気中の粉じん濃度との比較はせずに、少しでも粉じんが検出されたら漏えいと判断する。これはヘパフィルターがきちんと機能していれば、排出口で粉じんが検出されることはないからだという。

施工業者側の負圧除じん機の管理では、こうした排気口での漏えいチェックがされておらず、機器が適正だったかまではわからないことになる。

コンサルタントの1人は「漏えい事故のほとんどが負圧除じん機の不具合です。その原因はこの装置の管理ができていないからです。大半の業者はこうした管理方法を知りません」と明かす。

そのためデジタル粉じん計を持っている業者はごく少数だという。

この事実は環境省の委員会などで指摘されていることだが、アスベストの除去工事を専門に行う業者が工事に必須の装置の管理方法すらろくに知らない現状には戦慄すら覚える。
~つづく~
【井部正之】

※初出「独自情報を基に専門家による原因究明を敢行 名古屋市地下鉄アスベスト飛散事故の真因」『ダイヤモンド・オンライン』2014年3月26日掲載に一部加筆・修正

 

★新着記事