イランで反サウジアラビア感情がこれまでになく高まっている。イランの首都テヘランのサウジアラビア大使館前で11日、市民による大規模な抗議デモが行われた。500人規模といわれるこのデモの発端は、2週間前のある事件にさかのぼる。(大村一朗)

イランのザリーフ外務大臣のフェイスブックのページには、この事件の早期解決を求める書き込みが多数寄せられている。

イランのザリーフ外務大臣のフェイスブックのページには、この事件の早期解決を求める書き込みが多数寄せられている。

 

3月28日、イランの正月、ノールーズの長期休暇を利用してサウジアラビアのメッカを訪れたイラン人巡礼団が、メッカに近いジェッダ空港から帰国の途に着 こうとしたときだった。最後の出国審査で14歳と15歳の少年2人だけが嫌疑をかけられ、取り調べのために連れて行かれた別室で、空港職員2名から性的暴 行を受けたという。不審に思った少年らの家族によって、少年らは救い出された。

イランの準国営イスナー通信がイラン巡礼庁長官の話として次のように報じている。

「その場で事件が巡礼団全体に伝えられると、彼らは帰国便への搭乗を拒否し、ジェッダのイラン領事館に通報しました。その結果、ジェッダの警察長官 と空港警察、空港の専属医師が呼び出されました。彼らはこの問題を非常に重要な事件として審理し、当事者の少年2人の協力をもって、その晩にも2人の空港 職員を拘束しました」

同日中にイラン外務省は在イラン・サウジアラビア大使館の領事を召喚。強い抗議を伝えるとともに、抗議文書をサウジアラビア大使館に通達し、2人の空港職員の速やかな処罰、極刑を要請した。

イスラム教シーア派のイランとイスラム教ワッハーブ派のサウジアラビアは政治的にも宗派的にも元来犬猿の仲であり、これまでもメッカ巡礼に絡むイラ ン人の不満は絶えたことがない。空港で指紋を採取するとか、ビザを拒否するとか、シーア派特有の礼拝を妨害するといったサウジ側の「非礼」「侮辱」の数々 に、イラン人全体が積年の恨みを抱えている。そんな中で起こった今回の事件は、常にくすぶっていたイラン人の怒りに油を注ぐものだった。

折しも3月26日から、サウジアラビアを中心とするアラブ諸国によって、イエメンのシーア派組織に対する空爆が行われており、イランでは連日その ニュースが大きな怒りとともに報じられていた。そんな中で起こった今回の事件は、改めて国家、宗派双方での反サウジ感情をイラン国民の中に再燃させた。
多くの政府要人がこの事件に声明を出す中、最高指導者の罷免権を持つ専門家会議のメンバーの一人、アヤトッラー・エルモルヘッディー師はサウジ当局を糾弾する次のような声明を出した。

「これは個人の道徳的腐敗の問題ではなく、イランとイラン人を侮辱するための政治的な動きだ。我々は毎年の大巡礼、小巡礼の際に、サウジアラビアの ホテルやモスク、巡礼路などで侮辱や窃盗などの様々な問題に直面している。だが、イラン人巡礼者に対するこうした仕打ちが、空港の税関といった、完全に政 府の統制下にある場所で起こったのなら、そこには必ず政治的背景がある。なぜなら、政府職員が職務中にそのような穢れた計画を実行に移す勇気など普通は持 てないからだ」

イラン巡礼庁長官は、「もしサウジアラビア政府が犯罪者の処罰とその過程を明らかにするつもりがないのなら、巡礼者の身の安全を保証する能力がないことを物語るものであり、イランはこの件に関して別の決定を下さなければならない」と苛立ちをあらわにしている。

サウジアラビア政府からはいつまで待っても公式な謝罪はなく、拘束された2人の空港職員の処罰も伝わってこないまま、出所の怪しげな様々な反サウジ 報道や、当事者の少年の1人が自殺したという噂までが報じられて、外務省がそれを打ち消す事態にまで発展した。一向にサウジ当局から公式な謝罪を引き出せ ない政府に業を煮やした市民が、とうとう12日のサウジ大使館抗議デモに及んだというのが顛末だ。
しかしこのままでは、次の抗議デモの矛先は、テヘランの外務省かイスラム評議会(国会)に向かうかもしれない。