大阪市を廃止して五つの特別区に分割する、いわゆる「大阪都構想」。賛否の住民投票は17日に行われる。都市計画、公共政策が専門の藤井聡京都大学大学院教授に「都構想の危険性」について話を聞いた。
ラジオフォーラム 聞き手:西谷文和 整理:中川波佳)

学者による記者会見で「大阪市解体」のリスクを説明する藤井聡さん(一番右)。5日大阪市内 撮影栗原佳子

学者による記者会見で「大阪市解体」のリスクを説明する藤井聡さん(一番右)。5日大阪市内 撮影栗原佳子

 

◆ 一度解体されたら大阪市には戻れない

ラジオフォーラム(以下R):大阪都構想と言われるものが、よく分かりません。

藤井: もともと、「大阪都構想」の住民投票って言われていることが完全な間違いなんですよ。大阪市民の方が決めないといけないのは、特別区設置協定書の賛否なんです。これは「大阪都構想」ではないんですよ。

R:特別区設置協定はどんな設計図なんですか。

藤井: 一言で言うとまず大阪市というものを廃止して無くなります。そして、その四分一くらいの行政のお金と権限を府に上げます。残る四分の三を五つに分けます。 五つに分けて五つの特別区を作ります。要するに、一つの大阪シティが五つの小さなシティになる。小さくなるだけじゃなくて、2200億円分の町づくりの権 限も吸い上げられる。特別区設置協定書にはこういうことが書かれている。五つのスモールシティを作りますから、議会も五つになります。今まで大阪市役所一 個だったのが、五つの市役所というか特別区役所ができます。

R:二重行政じゃなくて五重行政じゃないですか?

藤井: 五重行政どころか府まで入れたら六重行政ですよ。設計図にはそう書いています。

R:よく言われているのは、よく分からないからとりあえず一回やってみて、ダメだったらまた元に戻せばいいと。

藤井:残念ながら不可能です。今の法律では。

R:不可能なんですか?

藤井: なぜかというとですね。大阪府を解体して特別区を作るという法律はもちろんあるんですけれど、特別区を廃止してもう一回大阪市に再統合しようとする法律は作られていないんです。

R:大阪市がもし五つに割れてしまったら、お金もかかりますね。

藤井:そうそう。とにかく、これお金がすごくかかるんです。だって、大阪市役所っていうのは「都構想」を進めている勢力の計算では、600億円(の初期コスト)かかると言われているんです。そして、ランニングコストが毎年20億円かかると言っています。

R:ちょっと待ってくださいよ。初めに600億円の税金がかかって、さらに毎年20億円かかる。

藤井:これはもう確実にかかるんです。一方で、「都構想」になったら、二重行政が無くなってお金が浮いてくる 「かもしれない」と言っているんです。でも、「かもしれない」と言っている人がいるだけで、「浮くかいな」と言っている人は山ほどいて、そっちの人の方が 数が多いんですよ。

R:当初は、二重行政で4000億円程浮くと言っていましたね。

藤井:言っていました。役所の人が計算してみたら、「そんなんありません」。そしたら、当時の(橋下)市長が 「いや、そんなことはない。もっと積んでくれ」と、新聞報道にも書かれています。二重行政と関係ないものいっぱいに積んでも年間155億円です。4000 億円と言っていたのに、何回も計算しなおして、155億円です。そして、二重行政の解消と全然関係ないものが、そこに154億円入ってるんです。

R:ということは、年間20億円のランニングコストがかかって、浮くのは1億円。ということは、大阪市民は年間19億の赤字をさらに被らないといけない。

藤井:僕はそちらの意見の方が全くもって合理的で納得できる意見だなと思いますね。

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