国営交通手段は計画経済の混乱とともに無秩序の度を深めていた。レール、枕木、トンネル、橋梁、機関車、客車など、あらゆる鉄道施設と設備が更新されず無残に劣化、老朽化した。1990年代後半の北朝鮮の鉄道はまさにズタズタであった。列車の窓ガラスは、盗まれたり、乗り降りの邪魔だと割られたり取り外されたりし、座席は暖を取るために車内で燃やされ、枕木は薪として住民たちが外して持って行ってしまう。送電線は切られて古銅線として売り払われた。

停電で止まった列車から降り側溝の水で洗顔する乗客たち。2005年6月撮影リ・ジュン(アジアプレス)

 

さらに電力難が拍車をかけた。北朝鮮の鉄道は大部分が電化されているため、1990年代後半以降、停電による運行麻痺が常態化した。列車が途中で止まるのは当たり前。数日間、まったく動かず車両に閉じ込められてしまうということが今も続いている。最近の例を一つ。北部両江道恵山(ヘサン)市に住む取材協力者のチェ・ギョンオク氏によると、「恵山市と平壌市を東海岸経由で結ぶ列車区間では、2015年10月中旬時点で、通常22時間の所要時間に、3日から6日もかかる」とのことだ。(続く)

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