ベトナム人留学生4人が暮らす東京都内の日本語学校の寮。広さ4畳半のアパート二段ベッドが並ぶ。寮費は1人月3万円というボッタクリだ。撮影 出井康博

ベトナム人留学生4人が暮らす東京都内の日本語学校の寮。広さ4畳半のアパート二段ベッドが並ぶ。寮費は1人月3万円というボッタクリだ。撮影 出井康博

◆このままでは凶悪犯罪発生の可能性

日本語学校から専門学校や大学に“進学”し、彼らは日本人の嫌がる仕事に明け暮れる。そうして稼いだ金の多くは、日本語学校に学費として吸い上げられる。せめて学費の支払いを逃れようと、不法滞在者となるベトナム人は後を絶たない。その後、窃盗などの犯罪に走ってしまうのだ。

こうした状況を見ると、私は「留学生10万人計画」の達成を政府が目指していた2000年代前半を思い出す。当時、中国から出稼ぎ目的で来日する“偽装留学生”が急増していた。彼らの受け皿となったのが、現在と同じく日本語学校、日本人の学生不足に悩む地方の大学などだった。授業などまともに行なわず、定員を大幅に上回る数の留学生を受け入れていた大学も多かった。

そんななか、2001年に発覚したのが「酒田短大事件」である。山形県酒田市にあった酒田短期大学は日本人の学生が集まらず、出稼ぎ目的の中国人留学生を大量に受け入れて経営再建を目指した。中国人たちは大学に籍だけ置き、東京で不法就労に励んでいた。そのことが発覚し、問題になったのだ。

同時に、留学生が起こす犯罪も社会問題と化した。「留学生10万人計画」が達成された2003年、東京都内では外国人犯罪全体に占める留学生の割合が4割にも達し、5年前の23パーセントから急増した。

そして同じ年、全国に衝撃を与えた事件も起きることになった。中国人留学生3人による「福岡一家4人殺害事件」である。犠牲者は日本人夫婦と小学生の子ども2人で、遺体は福岡県博多湾で見つかった。

犯人の3人は、いずれも日本語学校を入り口に来日していた。その後、2人は私立大学と専門学校に進学するが、いずれも学費や生活費の工面に苦労していた。そこで裕福そうな家庭に目をつけ、金品目的で犯行に及んだのである。

あの事件から10年余りを経た現在、今度はベトナム人“偽装留学生”の急増に伴い、彼らが起こす犯罪も問題となりつつある。留学生の国籍が「中国」から「ベトナム」に変わっただけで、犯罪が増加する背景は極めて似通っている。留学生を増やそうとする政府の方針によってビザの発給条件が緩和された結果、“偽装留学生”が増え、犯罪もまた増加する。

福岡で事件が起きた途端、留学ビザの審査は厳しくなった。“偽装留学生”もいったん減り、同時に留学生が起こす犯罪も減少していった。

政府は「留学生30万人計画」が実現するまで、ビザの大盤振る舞いを続けるつもりなのだろう。第2の「福岡一家4人殺害事件」でも起きない限り、その方針が転換されることはなさそうである。(了)

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出井康博 いでい・やすひろ
1965年、岡山県生まれ。ジャーナリスト。英字紙「ニッケイ・ウィークリー」記者などを経てフリー。著書に『松下政経塾とは何か』(新潮新書)、 『長寿大国の虚構—外国人介護士の現場を追う—』(新潮社)など。『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)を7月21日に上梓。

 

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